「紫紺、いつまでもごろごろしていてはいけません。湯冷めしてしまいますよ?」
「まだあついんだ」
「すぐに冷えてしまいます。ほらちゃんと前も合わせてください」

 ごろごろしていたので寝間着が乱れています。これでは本当に風邪をひいてしまいますね。それにお行儀もよくありません。紫紺は天帝の血を継いだ御子なのですからしっかり教育しなければ。

「ダメです。風邪を引いてしまいます。それにお行儀だって悪いですよ」
「おぎょうぎ?」
「そうです。あなたは天帝の嫡子(ちゃくし)です。どんな時も威厳を持たなければいけません」

 そう、紫紺はまだ三歳の子どもですが天帝の嫡子です。それはゆくゆくは天帝の玉座に座るということ。紫紺が立派な天帝になるように育てるのは天妃である私の責務でした。

「さあ起き上がってください」
「ここひやひやできもちいいのに~」
「気持ちは分かりますが、それでは立派な殿方(とのがた)になれませんよ?」
「ははうえはりっぱなのすき?」
「そうですね、好ましいと思います」
「じゃあオレりっぱ~」

 紫紺がぴょんっと起き上がりました。
 反動を利用した見事な身体能力です。三歳児とは思えぬそれに黒緋の血を色濃く受け継いでいるのが分かります。

「あ、こんどはせいらんがころころしてる」
「え?」

 振り向くと青藍がころころ転がっていました。
 どうやら兄上の真似をしたかったようですね。「あうあ〜」と赤ちゃんがころころしています。

「せいらん、まてまて~!」
「あい~。ばぶぶっ」
「こら、二人とも騒いではいけません」

 二人の追いかけっこが始まってしまいました。
 湯冷めどころか眠気まで冷めてしまったようです。
 私は止めようとしましたが晩酌を楽しんでいた黒緋に声をかけられます。

「鶯、そろそろ俺にも構ってくれ」
「でも紫紺と青藍が騒がしくしてしまっています」
「俺は構わない。それに今夜この宿坊に泊まるのは俺たちだけだ。多少騒がしくしても問題ないだろう。鶯、こっちへ来い。少し付き合ってくれ」
「あなたがそう言うなら……」

 私は小さく苦笑して黒緋の隣に座りました。
 酒器を渡されて酒を注がれます。