「ふふふ、ありがとうございます。安心しました」
「それはなによりだ」

 黒緋も目を細めて笑いました。
 こうして子どもたちの様子を知って安心すると、また黒緋と二人きりだということを意識します。
 どちらからともなく唇が重なって、口付けの合間に吐息が漏れました。
 自分の吐息に熱が帯びていて、なんだか恥ずかしい……。
 でも黒緋の口付けは体の強張りをほどいていくかのような甘やかなものなのです。
 しゅるりと(おび)がほどかれて、黒緋の手が素肌を這いました。へその周囲を指で撫でられ、腰の曲線を這い、胸のふくらみへと辿ります。

「あ……。ん……」

 敏感な部分に触れられて体が熱くなる。
 同時に首筋の柔らかな皮膚を吸われて、背中に甘い痺れが走りました。
 くすぐったいのに体が熱くなっていく。
 たまらなくなって黒緋の両腕のなかでみじろぎました。
 そんな私に黒緋は目を細めて唇を深く重ねます。
 夜の嵐に蔀戸(しとみど)は音をたてているのに、まるで遠い世界のよう。

 ガタガタガタッ! ガタガタガタッ!

 暴風雨が蔀戸(しとみど)を激しく揺らします。
 大粒の雨がバチバチと蔀戸に打ち付けました。
 でも今の私と黒緋にとっては遠い世界です。

 ガタガタガタッ! ドンドンドンッ! ドンドンドンッ! バチバチバチッ!

 バチバチドンドンと蔀戸に大粒の雨。
 とても激しい豪雨のようですね。
 ほんとうに戸が叩かれているような音です。

 ドンドンドンッ! ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!

 …………。
 …………これ、雨粒が戸を叩いているんですよね? ほんとうに雨粒ですよね?

「…………」
「…………」

 私と黒緋は真顔で顔を見合わせました。
 嵐の物音にしてはあまりにも……。

「あの、黒緋様、この音は……」
「ああ」

 嵐がゴーゴーと(うな)る中、ドンドンと蔀戸を叩く音。
 大粒の雨だと思いたいけれど。

「――――おーい! 開けてくれー!! うわっ、なんて嵐だっ……!」」

 声です! 声が聞こえました!
 ゴーゴーとした嵐の中、ドンドンと蔀戸が叩かれていたのです!