淡い月を愛していたい

 私が喰らったのは、たったひとり────

小林先生が物語を読み始めた時だった。教室のドアが開く音がして、みんなの視線が教室の入り口に集まる。


「小林先生今ちょっとお時間よろしいでしょうか?」

事務の先生が控えめにドアから顔を覗かせ、小林先生に声をかける。

先生は「なぜ、話しかけられたのか分からない」という感じで、教科書を持ったままその場に固まった。

「昨夜のことでお話を聞きたいと警察の方が···」

ああ、と納得したように小林先生は相槌を打つ。

「分かりました、すぐ行きます。みんな私が戻るまで自習してて、委員長頼んだわよ」

小林先生はそう言い放つと、足早に教室を出て行ってしまった。


「警察」という言葉と「先生」という授業の看守がいなくなったことで、静かだった教室に、生徒たちの話し声が広がり始める。