淡い月を愛していたい

月煌は、壁男の言葉には全く動じず冷静に答えた。

「昔、人間に助けられた。その恩返しをしている」

しかし、冷静な月煌のその言葉に壁男は「人間に助けられた…？恩返しだと！？」と、ますます怒りを募らせていった。

「人間が我々に何をした…！我々から森を奪い、暗闇を奪った…！！忘れたとは言わせんぞ小僧！」

「だからと言って、いつまでも人間と争ってお互い血を流し続けるのは無駄なことだと思わないか？どちらかが寛容にならなければこの争いは終わらない」

「寛容になるも何も、人間が滅べば終わる争いだ！貴様は妖怪だろう？妖怪としての誇りはないのかッ！！」

「いや、待てよ。この匂い」壁男は何度か空気を肺いっぱいに吸い込むと、皮肉な微笑を浮かべた。

「貴様、半人半妖か？」


月煌は何も言わなかった。

壁男はそれを肯定だと捉えたのか薄赤い喉を覗かせて、天井を突き抜けるほど腹いっぱいに声をあげて笑う。

「全くもって嘆かわしいな、貴様の親は大罪を犯した。その証が貴様だ」

「貴様は、妖怪にも人間にもなれない半端者だ」

酷い言われようだ、だが月煌はそれに対して言い返すことはせず黙ってそれらを受け止めている。

「貴様のような穢れた血を持つ屑は必要ない」