淡い月を愛していたい

壊れた壁の向こう側には、窓から差し込む月明かりに照らされた月煌が立っていた。

「月煌!」

「貴様なぜここがわかった!?」

月煌は何も言わずに、自分の耳飾りがついた耳をとんとん、と指差す。

「まさか…!」

壁男が、私の手から離れてもなお、鋭いビープ音を発し続けている防犯ブザーを見て、忌々しげな表情になる。

「人間の小娘風情が!小賢しい真似を…っ!!」

「喰ってやる!!」

壁男の手がこちらに向かって伸びてくる。

殺される、私はそう思って恐怖に身を震わせながら反射的に目をぎゅっと瞑り、身を縮めた。


その瞬間ーー。

腹の底から一気に喉もとへ突き上げてくる、この世のものとは思えない、悲痛な叫び声が冷たいコンクリートの部屋に響き渡った。

「しっかりしろ、あかり」

恐る恐る目を開けると、目の前には晃生を左肩に担ぎ、右手に鮮紅色に染まった短刀を持った月煌が立っていた。

「この男はあかりが探していた晃生で間違いないか?」

「うん……」

「そうか、見つかって良かったな」

月煌は、そう言うと私の横に晃生をゆっくりとした動作で下ろした。

「おのれ小僧何故だ…ッ」

壁男の両腕は、なくなっていた。

月煌が持っている短刀についているそれは、壁男の血なのだと唐突に理解する。

壁男は、怒りに満ちた声で月煌に向かって叫んだ。

「なぜ妖怪のお前が人間を助ける…!!」