淡い月を愛していたい

「あかり!」

月煌は、左腕を私のひざの裏にまわし抱き上げ、素早く妖怪の横に回り込み、足の甲で妖怪の顔に強烈な一撃を叩き込んだ。

しかし、妖怪はとぷんと水の中に潜るように壁に入り、逃げてしまう。

「逃がすか…!」

月煌は、私を抱き上げたまま妖怪を追うために走り出した。私は振り落とされないように、月煌の首にしがみつく。

「さっきのやつ何…!?」声高く私が叫ぶ。

「あれは、壁男だ!」

「壁男…ってなに!?」

「壁の中を移動する妖怪で、人間を壁の中に引きずり込む」

「じゃあ、百合香と晃生はアイツに壁の中に引きずり込まれたってこと!?」

「十中八九そうだろうな」

「そんな壁の中なんて…どうやって助けたら…」

「ほとんどの妖怪は捕えた人間をすぐに食べたりはしない、この学校のどこかに大勢を入れられるほど大きな空洞があるはずだ。」

大きい空洞?そんな空洞がこの学校にあるなんて聞いたことないし、見たこともないけど。


月煌は、階段まで来ると私を段差に座らせるように下ろし「壁から離れて待て!」と言い放つと、上の階へとあがっていった。

「ちょっと、まって…!」

追いかけようとしたが、自分が足手まといになることはさっきの音楽室の件で見に染みてわかった。
だから、月煌に言われた通り壁から離れた階段で待つことにした。