淡い月を愛していたい

「百合香…」

私は自分の体から血の気が引いていくのを感じた。

音楽室の中の異常さは、音楽室に入る前からわかっていた。

電気がついてなかったからとか、中から物音が聞こえなかったからとか、そういう理屈じゃなくて、本能で。

でも、淡い期待は抱いていた。もしかしたら無事なんじゃないかって、実はただ電話が繋がらなかっただけで、もう家に帰ってるんじゃないかって

でも壁に上履きが埋まるなんて普通じゃあり得ないし、もしかしたら百合香も晃生も無事じゃないかもしれない。

嫌な想像ばかりが頭をよぎって、目の前が一瞬で真っ暗になり、たちまち立っていられなくなる。

私は、壁の近くで膝から崩れ落ちた。

「あかり!大丈夫か?」

月煌は、私に駆け寄り壁に埋まったものを見ると顎に手を当て、頭に浮かんだ考えを整理するかのように呟く。

「壁だけに残っていた妖気、壁に埋まった楽器と上履き……」

「まずい…っあかり壁から離れろ!」月煌が私に手を伸ばす、それと同時だった。

赤い上履きが埋まった壁から、男の上半身と腕が私に向かって伸びてくる。まるでスロー再生をされている映像を見せられているようだった。

「いや…っ!」