淡い月を愛していたい

黒水晶のような瞳がキョロキョロと落ち着きなく辺りをひとしきり見回す。

「どうしたの?」私が訊ねると
「何かの気配を感じた気がしたんだが…気のせいだったみたいだ」と言って扉へと視線を戻した。

「鍵かかってると思ってたのに、学校の防犯対策って意外とおおざっぱだよね」

「鍵はかかっていたらしいが、壊れている。」

恐らくこの学校にいる妖怪が壊したんだろう。という言葉を聞いて、私の中の妖怪という存在が現実味を帯びる。

いま現実味を帯びたからと言って、今まで信じていなかったわけじゃない。
妖怪である月煌と火の玉と現在進行形で一緒にいるし。

でも、月煌ってどこか人間らしさがあるっていうか、私の中の妖怪のイメージとは違くて困惑していたのだ。


「何度も言うが、この先は危険で何が起こるか分からない。今ならまだ引き返せるぞ」

月煌は私の目を見つめ、逸らさない。
その目は、まるで私を試しているようだった。


「私、百合香と晃生を助けるまでは絶対帰らないよ」