淡い月を愛していたい


   *・*


「はぁ…きっつい…」

普段、部活で多少走りはするが元々運動があまり得意ではない私は、学校につく頃には息絶え絶えの状態だった。

そんな私を横目に月煌は、校門前から学校を観察するように見たあと、無表情のまま眉ひとつ動かさず

「妖気が校内全体に漂っている…妖怪の居場所を特定するのが大変そうだな」と、言い放った。

そう言われてまだ整いきれていない呼吸を整えながら私も目を凝らすが

暗闇の中にぼんやりと校舎の白が見えただけで、月煌の言っている妖気は見えなかった。


「暗いのによく見えるよね」

「妖怪は夜の世界に生きる者だから、暗くても見えるのは当然だ」


〝妖怪〟〝夜の世界〟私には見えないものが月煌には見えている。
私と月煌は全く別の生き物なのだと分からせられた気がして。

訳もなく寂しい感じが、ひしひしと込み上げてきた。


「道案内はここまでで大丈夫だ、君はもう家に帰った方がいい」

「え、なんでよ!?」

「この先は、危険だから僕ひとりでやる」

危険なんてそんなの百も承知で私はここまで来てるんだ。今、帰るなんて嫌だ。

「確かに、危険かもしれないけど人手は多い方が探しやすいでしょ?」

「言い方を変えよう、君はハッキリ言って足手まといだ」そう言って月煌は、私の提案をバッサリと切り捨てた。

月にうっすらとかかっていた雲がそっと流れていく。
仄かに差していただけだったはずの月光が、辺りを強く照らして

ぼんやりとしか見えなかった月煌の顔がしっかりと見えた、月煌の顔は人形のように美しいが、綺麗なばかりで表情が乏しい。

「足手まといになるかなんて、やってみなきゃ分からないでしょ!」

「いいや、結果は目に見えてる。今すぐ帰るんだ」どこ吹く風といった澄まし顔のまま話す月煌に

私は躍起になって「友達が危険な目にあってるのに何もせずただ待つなんて嫌だ!私も一緒に行く!」なんて、まるで子供のように駄々をこねる。


月煌はそんな私の様子に、やれやれとでも言うように大きなため息をついた。