*・*
私は、とんとんと小刻みに足音を立てながら階段を降りる。
すると、リビングからお母さんの話し声が聞こえてきた。
誰と話しているのだろうと思いそっと覗くと、お母さんは家の固定電話で話をしていた。
「ーーはい、分かりました。一度娘に確認してみます、失礼します」
「どうしたの?お母さん」
「あかり!ちょうど良かった!百合香ちゃんのお母さんから今連絡があってね」
「百合香ちゃんまだ家に帰ってきてないみたいなの」
「え、百合香が?」私は手に持っていたスマホの電源を入れた。画面に映し出された時刻は6時47分。
そこまで遅くはないし、大会に力を入れている吹奏楽部ならもう少し遅くてもおかしくはない。
でも、最近は行方不明者が多いから。もしかしたら……
「電話も繋がらないみたいでね、あかりからも百合香ちゃんに電話してみてくれない?」
「う、うん…わかった」
私は急いでスマホを操作し、百合香に電話をかける。
百合香、お願い出て……。私のそんな願いとは裏腹に、スマホからは
【おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません】
という無機質なアナウンスだけが聞こえてきた。
「なんで…」
今回はたまたま繋がらなかっただけかもしれない、そう思い震える指でもう一度電話をかける。
だが、次も電話は繋がらず無機質なアナウンスだけが聞こえてくる。
「なんで繋がらないの…!」
その時だった、ある言葉が私の心をふとかすめた。
〝「手紙の話だが、妖怪の仕業の可能性が高い」〟
なぜ、今あの人の言っていたことを思い出す?
まずあの浮世離れした人は人間だったのか?
もし、人じゃないとするなら何?と考えて、首を横に振る。
いやいや、何考えてるの私、妖怪なんているわけ……
今までと同じように、妖怪の存在を否定しようとして途中でそれをやめた。
〝「本当にそうと言い切れるか?」〟
彼の言葉がずっと頭から離れないから
「…ごめん、お母さん私ちょっと出かけてくる。ハンバーグ帰ってきてから食べる」
そう言うと私は、「え?あかり?」と困惑の表情を浮かべる母を横目に
スマホと防犯ブザーをスカートのポケットの中に入れ、懐中電灯を手に持ち玄関へと向かった。
「ちょっとどこ行くの!?待ちなさい、あかり!」
私は母の制止を振り切るように、急いで靴を履き、家を飛び出した。