淡い月を愛していたい

「……この手紙はひとまず返そう。また何かあったら手紙を書いてくれ」

そう言って月煌は私に手紙を返し、私から目を逸らした。

そして、手につけられた鈴を鳴らしながら去っていく。
私は月煌の後ろ姿を見て初めて、自分が息を止めていたことに気がついた。

「なに、あいつ…」


   *・*


私は狐につままれたかのような不思議な気分で家に帰った。門扉フェンスを押そうとした時、表札が視界に入る。

うちの玄関の表札は木製で母方の祖父が、手作りしてくれた物だ。

神代 悠人
   紗夜
   あかり

私の家族の名前が彫ってあってその横には昔、母が飼っていた猫の絵も彫られている。


玄関のドアを開けると、私は母に帰ってきたことを知らせるように大きな声で「ただいま!」と叫んだ。

すると、母はリビングからひょこっと顔を出し微笑みながら「おかえり」と言ってくれた。