私は、驚きで肩が飛び上がり声にならない悲鳴をあげる。

目の前には、白を基調とした帯が黒色の着物に、私とさほど歳の変わらなさそうな青年が立っていた。

白い着物の上には、 深縹(こきはなだ)色に美しい月下美人の刺繍が施された羽織りが羽織られている。


「もう、ビックリしたじゃない!アンタ誰よ!?」

驚きと警戒、痛みが混じり目の前に立つ青年に食ってかかるように話しかける。

「僕は、月煌だ」

月煌と名乗る青年は、羽織りの袖から何かを取り出そうとする素ぶりを見せた。

その際に袖が捲れて手首が見えたのだが、手首には金色の鈴でつくられた腕輪が付けられている。


「この手紙の差出人の神代あかねって君か?」そう言って差し出された手紙には見覚えがあった。

「それ私が祠の前に置いたやつ…もしかして、月煌って百合香が話してた…」

状況を整理するための独り言だったのだが、廃墟のようにしんとしているこの道では、私の声を遮る物は何もなく、月煌にも聞こえたらしい。

「この手紙は君が出したもので間違いなさそうだな。あかねさん手紙の話だが」


今、私のことあかねって呼んだ?

こいつ、人を驚かせるだけでなく名前まで間違えやがった。しかもビックリさせられたこと謝られてないし。

目の前に立つ青年を睨みつける。

青年の顔は色白にすっと通った鼻筋、薄い唇といった感じでいかにもモテそうな美形だった。

ちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ。私は無駄に端正な顔立ちをした青年の左の頬を引っ張る。


「私の名前、あかねじゃなくてあかりだから!ちゃんと手紙読んでよね!」

月煌は何か言いたげな不満そうな顔で私を見たあと、私の手を掴んで自分の頬から手を離させた。

「手紙の話だが、妖怪の可能性が高い」