*・*


次の日、学校へ行くといつもは静かな朝の廊下に多くの生徒が集まっていて騒がしかった。

何かあったのかと不思議に思った私は、周りの様子を伺う。

────ねぇ、一組の人も行方不明らしいよ。
────オレの部活の先輩も連絡とれねぇんだよ。
────最近多いよね、行方不明の人。

そんな声が聞こえてきた。

「あかり!」

誰かに名前を呼ばれた気がして、声の聞こえた方を見る

すると、廊下の向こう側から百合香が慌てた様子で駆け寄ってくるのが見えた。


どうしたんだろう、朝からそんなに慌てて。なんて考えながらぼんやりと百合香を見ていた。

そんな私を現実に引き戻すように、百合香は私の両肩を勢いよく掴む。


「聞いて聞いて!うちのクラスの前原くんも行方不明になっちゃったんだって!」

「え、晃生が?」

前原晃生とは、家が近所だったのと親同士の仲が良かったため、小さい時からいつも一緒にいた。

でも、中学二年のあの日から疎遠になって、それからは話していない。
要するにお互い気まずいのだ。

「あかり、前原くんと幼馴染みなんだよね?」

「あぁ、まあそうなんだけど。中学入ってから全然話してないんだよね…連絡先とかも知らないし……」

だんだん弱まる私の語気に何かを察した百合香は、次に発する言葉に悩んで、なるべく当たり障りのないことを言うことにした。

「あ、そうなんだ。でも心配だよね……」

その声は、周りのざわめきに埋もれてしまうように小さく、こちらの機嫌を伺っているようだった。

「うん」私は短く返事をした。

私と百合香の間に何とも言えない重苦しい空気が漂う。


百合香はその空気を咄嗟に振り払うように、口を開いた。

「あ〜、昨日の手紙出してくれた?」

「うん、ちゃんと祠の前に置いたよ。」

もう、ほんと大変だったんだからね!外暑いし!道わかんないし!と、自分の苦労話を語った。

「あはは、ごめんごめん」

「今度アイス奢ってね」

「わかってるって〜、ありがと!」

でも、手紙出したのに何も解決してないね。やっぱり噂は嘘だったのかな。
明後日の方向を見ながら百合香が呟く。

「きっとそうだよ、妖怪なんて」

───いるわけない。私はその言葉をぐっ、と呑み込んだ。