淡い月を愛していたい

「あの、白巖山の入り口を探していて…どこにあるかわかりますか?」

「白巖山の入り口…?」

先ほどの穏やかな雰囲気から打って変わって、おばあさんは細めていた目を見開き、私の目をじっと見つけてきた。

あまりの雰囲気の変わりように、スマホを握る手に力が入って、足がじりじりと後ろに動く。


「あの……わたし」

「白巖山の入り口なら、ほら、お嬢ちゃんの後ろにあるよ」

おばあさんは歳を重ねたしなびた手で私の後ろを指さした。

指をさした方向を見ると、確かに青々とした木々の中に階段が続いているのが見える。

私がさっき見た時は、階段なんてなかったはずなのに…私が見落としただけ?

「もうじき日が暮れるよ、早く行った方がいいんじゃないかい?」

おばあさんにそう言われ、空を見上げた。
まだ空は青いが太陽が傾き始めている。

もたもたしていると、すぐに空は赤を帯び、オレンジ色に変わるだろう。


「ありがとうございます、助かりました」

「いいんだよ、いいんだよ」

おばあさんは目を細め、口角に微笑を漂わせながら、カラカラと音を立てる手押し車を押して歩き出した。


数歩、歩いたあとこちらを振り返りーー。


「あの山は物の怪が出るからね、奥には入りすぎないようにするんだよ」

そう言い残すと、おばあさんはまた何事もなかったかのように歩き出した。


不思議なおばあさんだったなぁ。
そんなことを考えながら森の入り口へと歩みを進めた。