淡い月を愛していたい

*・*


キーンコーンカーンコーン、馴染みのある鐘の音がスピーカーから聞こえ、生徒たちはそれぞれ帰りの支度をしたり部活動の準備をし始める。

私も鞄に荷物を詰め込みながら、左にあるガラス窓を覗き込んだ。

そのガラス窓からは真夏の太陽が地上をじりじりと照りつけているのが見える。

室内は冷房が効いているのに、心做しか蒸し暑さを感じた。

教室から出て、家に帰るだけでも暑いのに、手紙を出すために山にも行かなければならないことを考えて、億劫な気持ちになる。

行くと約束してしまった手前、断るわけにも行かない。でも、行きたくない。

そんな気持ちがせめぎ合っている時だった。


「あのね、あかり……」

百合香が、申し訳なさそうな表情で話しかけてきた
「どうしたの?」と私が訊ねる。

「さっき、部活の顧問に呼ばれてね、このままじゃ大会で優勝できないから今日も大会に向けて練習するって」

「だから、放課後行けなくなっちゃって……ごめんね」

よし、いいぞ。吹奏楽部の顧問!

百合香には申し訳ないが、白巖山に行くのがあまり乗り気ではない私にとっては嬉しい報告だった。

でも、その嬉しさを表立って見せては行けない。

あくまで残念そうな雰囲気を出しつつ後に響かないようにフォローしよう。

「そっかぁ、残念だけど大会の練習なら仕方ないよね。吹奏楽部、毎回大会に向けて力入れてるもんね」

「また今度行こう」と言おうとしていたのを遮るように、百合香は私に白い紙を押し付けてきた。

私は、押し付けられた紙を反射的に受け取る。


「ん?なにこれ?手紙?」

「白巖山の祠の前に置いてくれれば大丈夫だから!」

「じゃあ、わたし部活の練習行ってくるね!」

「え、ちょっと待ってよ百合香···!」

私の制止の声が聞こえなかったのか、あえて聞こえないふりをしたのか分からないが、百合香は走って教室を出て行ってしまった。

「えぇ、これ私が出しに行かないと行けないの···?」

押し付けられた手紙に困惑の声を漏らしながらも手紙を出しに行くことにした。