「人間を喰らう女がいるらしい、今は牢に入れられているようだが参拾五人その女に喰われたそうな」
ある時、巷で囁かれた噂だ。
「物の怪の類いか?」と、ある者が訊ねた。
人を喰らうなど、物の怪以外考えられないだろう。
人という生き物は、臆病で、わからないものを闇雲に恐れ、自分の身の安全のためにそれを遠ざけようとする節がある。
そして、つくづく噂好きだ。
「人喰い女が、牢から出るらしい」この噂は、人々に恐怖を与えた。
群衆は躍起になる「自分らが喰われる前に人喰い女を退治しなければ」と。
女が牢から出る日、人々はおのおの、鎌や槍、くわなど自分が持ち得る武器を持って
女が入った牢がある建物の前で女が現れるのを、今か今かと固唾を呑んで待った。
そして、女が現れるその時が訪れる。
「女が出てきたぞー!!」その一声で、皆は武器を握る力を強めた。
「あら、みなさま総出でお出迎えですか?」
出てきたのは、黒くて艶やかな髪に、月下美人のように白く、瑞々しい肌。そして、真っ赤な唇を持つ女だった。
群衆は、一瞬狼狽える。
人喰い女がこれほどまでに美しいとは誰も、思っていなかったからだ。
「お前が参拾五人を喰らった人喰い女か?」一人の勇気ある男が女に問いただした。
女はその言葉に、耐えようにも耐え切れなさそうに、真っ赤な唇を歪めて微笑を浮かべた。
「確かに、私は人を喰らいました」その言葉に群衆は衝撃を受けた。そして女に向かって武器を構える。
「ですが、参拾五人喰らったというのは空事ですね」
私が喰らったのは────