10年後、思い出したくなる物語




もう大丈夫かなと、水道の水を止めたとき、コンコンと窓を叩く音がした。

窓の外から家庭科室を覗いてジャージ姿の男子生徒が手を振っている。
もちろん私の知り合いではない。

沢崎くんに視線を向けると、「げっ」という声と共に眉間に皺を寄せた。


ゆっくり窓に向かうと怠そうに鍵を開けた沢崎くん。


「うっす!似合わないとこで何してんの?沢崎」


窓を開けるなり大きな声が家庭科室に響いた。

「体育祭の準備。つか大森お前、声でかい。耳イカれるわ」

“大森”と呼ばれたその男子は、大きな声のまま「すまん」と両手を合わせてみせた。




「沢崎が女子とイチャついてんの見えたから冷やかしに来たのに」

“大森”くんがヒソヒソと沢崎くんにそんな事を言っているのが聞こえる。彼にとっての小声は普通の人のボリュームらしい。

明らかに女子は私しかいないから私のことを言っているんだろうけど、反応に困るので聞こえてないフリをして校旗を畳んだ。

沢崎くんはバシッと大森くんの頭を叩くと、

「ハイハイ。で?本当は何しに来た?」

と言った。

「イテっ。ノリわるー」

大森くんは叩かれた頭を掻きながら続けた。


「体育祭の部活対抗の話に決まってんじゃん。マジで出ないの?」

「…出ねーよ。部活も参加してない俺が出たらおかしいだろ」

「だからこれを機にさ、またサッカーやれば良くね?」


「いやー…」


沢崎くんが腰に手を当て、頭をわしゃわしゃとしているのが見えた。

側から見ても分かる。“参ったなー”という後ろ姿だ。