余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~

「ちょっと天乃、首のホック留め忘れてる」
「えっ、うそ」

 反射的に首元に手をやろうとした天乃は、途中で動きをぴたりと止めた。一瞬の間を置いて、なんとなく気まずそうにお母さんに背を向ける。

「お母さん、お願い。寝違えちゃって手が上がらないの」

 少々まぬけな理由に、お母さんも俺もぷっと噴き出した。

「色気のない子ねぇ」
「食い気だけのお母さんに言われたくないですー」

 母子のやり取りがなんだか微笑ましい。今日はお父さんと弟は板金屋のほうに行っているようでいないが、清華家は皆仲がよくて理想的な家庭だと思う。

 今度こそばっちり支度を整え玄関を出ていこうとすると、お母さんが声をかけてくる。

「いってらっしゃい。夏くん、天乃をよろしくね」
「ええ。お任せください」

 なぜかどことなく心配そうにしているように見えたが、自信を持って応えると彼女は安堵したように微笑んだ。

 家を出て手前の道路脇に停めていた俺の車に乗り込んでから、一応天乃に問いかけてみる。