余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~

 約束の時間から十分が経過。あまり気にせずネットを見て時間を潰していたものの、それからさらに十分経っても彼は現れない。手術が長引いているのだろうか。それともなにかのトラブル?

 心配になり始めた時、「あの」と声をかけられたので反射的に振り向く。同時に、かごバッグの中にスマホをしまった。

 声がした先には、大勢の人の中でひとりだけ私を見つめているスーツ姿の男性がいる。四十歳くらいの小太り体型で、うねった短い髪がワカメみたいな、仕事帰り風の人だ。

「君、サキちゃん?」
「えっ?」

 道でも聞きたいのだろうか、と思ったのもつかの間、こちらに一歩近づいた彼は別人の名前を口にした。どうやら私を誰かと間違えているらしい。

「僕だよ、イグチ。今日は来てくれてありがとね」

 ハンカチで顔周りの汗を拭い、鼻息を荒くしてニタリと笑う彼になんとなく拒否反応が出る。無意識に肩をすくめ、口の端を引きつらせてぎこちなく返す。

「いや、あの、私はサキではないですし、なんのことかさっぱり……」
「紺色の浴衣を着て、ここで待ってるって言ってたじゃないか。他にそれらしき子はいないよ」

 そう言われて思わず自分の浴衣を見下ろした後、周りにキョロキョロと目を向けた。確かに紺色の浴衣を着た人は私しかいない。この人が待ち合わせている子と偶然特徴が同じだったということか。