会社のほうは、部長と話して手術の数日前からしばらく休職する予定だ。もうすぐ引継ぎが終わりそうだし、 これまでにないくらい濃厚で充実した日々を過ごせたものの、まだやり残していることがある。夏くんの大事な話とやらを聞かなければ。

 いったいなんなのか想像がつかず、偽装婚約の関係も終わったのだと思うとなんだか心許ない。無意識に指輪を触りながら、遠くに見える白藍総合病院の明かりをぼんやり見つめていた。


 その日の夜中、手術が終わったらしい夏くんからメッセージが届いていた。朝起きてすぐにそれを見た私は、一気に目が覚めた。

【今日はひとりで帰らせて悪かった。お詫びってわけじゃないけど、天乃の願い事叶えてあげる】
「願い事?」
【大阪行って食い倒れよう】
「えっ、いいの!?」

 メッセージをひとつ見るたび、思わず声に出してリアクションしてしまった。

 大阪へ行くってことは一日かかるはず。これも一応デート……だよね? 私が七夕の時に言ったことを覚えていて誘ってくれたんだ。どうしよう、すっごく嬉しい。