冬が終わっても春が来ても 君は、

ナツミなんて存在してないんだから知らない。

ナツミ、お願いだから今は出てこないでよ。

なんて、俺は何を考えてるんだろう。
自分が作り上げた虚像なのに。

だから俺がさっさと消しちゃえばいいんだ。

今、ナツミなんて居ないんだよって言って、ハルちゃんが好きだよって言って、本当に好きだよって気持ちを込めて、君とキスが、したかった。

「ハルちゃんをそんな風には扱えないよ」

「そんな風にって?」

「ハルちゃんを誰かの代わりにとか…」

「代わりにじゃないよ。今、私とキスをするのは本当だよ?練習ってだけで、私を誰かだって思ってって言ってるんじゃないよ。ちゃんと、今だけは…私を見て」

「ハルちゃん」

あぁ、ここで「本当に好きなのはハルちゃんなんだ」って言ったら、ハルちゃんは逃げ出しちゃうかもしれない。

俺のことを思って、自分を犠牲にしようとしているなんて、そんなことはすぐにとめてあげなきゃいけないんだけど、俺はそれができなかった。

唯一、ひとつだけでもハルちゃんの中に消えない存在を刻みつけたいって思ってしまった俺は、ずるくて最低だ。

ハルちゃんの手首を掴んだ。

蒸し暑い夜だった。

細い手首。
俺の手の平にすっぽりと収まった。

ハルちゃんの脈を感じた。

「キス、しちゃったね」

「あのね、フユくん」

「なぁに」

「教えといてあげる」

「ん?」

「好きでもない子とキスする男の子は嫌われるからね?」

俺がナツミを本当に好きで、
ハルちゃんを好きじゃないって思ってる君に、今すぐ伝えなきゃ。

「あ…」

流れ星。

俺と向き合って、背を向けていたし俺の顔を見ていたハルちゃんには見えなかったみたいで残念だった。

「女の子にとってキスは特別なものだからね?」

「ごめん…」

だいじなことを話しているのに、
流れ星に気を取られて、
とっくにその星なんか無い空に向かって「ハルちゃんが彼女になってくれますように」なんて願ってる俺は間抜けだ。

「まぁいいや。練習になった?」

「………うん」

今度は俺からちゃんと、本気のキスをしようって言うからね。

「じゃあナツミとする時は君が初めてだよって顔して、でも男らしく、するんだよ?」

「………ん」

ナツミの、バカみたいな話はもうおしまい。

ハルちゃん、君と俺だけの恋の話をしよう?