「はっ? 今なんて言ったっ?」
「試しにキスしてみて、何とも思わなかったら、それは恋愛感情じゃないんじゃない」

 こいつなんて事言い出すんだと、翔太は絶句した。昔から破天荒ではあったが、その思考回路は更に昔を上回っている気がした。

「す、するわけないだろっ」

 華は何故か、この時恐ろしい程冷静だった。

「それは、単純に私に対する嫌悪から来る拒絶なの? それとも好意があるからこそ嫌なの?」

 そう言われて、どうしてこんなに嫌なのかと、翔太もハッと考えさせられた。好きじゃないから嫌なのか、好きだから嫌なのか。

 確かに試してみたら、ハッキリするかもしれない――

 翔太は華に向き直った。

「……本当に、いいの?」

 その一言で、華は我に返った。

(私また、とんでもない事やらかしたんじゃ)

 でも心の中のもう一人の自分が、キッと睨んでいる。「お前は、翔太との友情を信じてるんだろう?」と。

「いいよ」

 翔太は華の両肩を掴み、華に顔を近づけてきた。今気が付いたが、翔太の身長は自分より大分高くなっていた。昔は自分の方が高かったのにと。



「目、閉じろよ……」

 その少し掠れた思ったより低い声に、華はドキリとした。心臓が勝手に早鐘を打っている。華はそれを制止しようと胸を押さえて、ぎゅっと目を瞑る。

 唇に温かく柔らかな感触が降ってきた。
 華は堪らず薄目を開けると、そこには全く知らない幼馴染の顔があった。

 こんな翔太を自分は知らない。

 翔太は角度を変えて、もう一度、華に優しく口づけた。

 そしてそっと、唇を離す――

「……どう?」

 そう尋ねてくる熱っぽい翔太の表情を、華はまともに見られなった。

 あの時の、光の言葉が蘇ってくる。

『アンタが言う様に、彼をなんとも思わないなら、キスしても気持ち悪いか、もしくは、どうってことない事でしょう?』

 華はとんでもない事をしてしまったと、改めて後悔した。


つづく