華は、真っ暗な自室のベッドの上に、倒れ込む様に寝転がっていた。もう何時間、そうしているだろう。体が怠くて動かない。

 このままベッドと一体化して、何も考えられなくなったらいいのにと思った瞬間、数時間前に翔太に言われた事が頭に浮かんで来て、華は自然と涙が溢れそうになった。

『無理、ごめん』

 この感覚は知ってる。昔、翔太と喧嘩別れした時と、全く同じ気持ちだった。

 あの頃翔太と喧嘩別れして、散々落ち込んでいた時、父親に「男の子にはそういう時が来るもんだと」言われた事を思い出す。

 あの頃は意味が分からなかったし、今も理解出来ない。したくもない。

 他人の薄っぺらい、からかいの言葉なんかで、自分たちの友情が、簡単に壊れた事に腹が立つのだ。自分たちのこれまで培って来た時間は、そんなくだらない事に負けるのかと。

 華はギュッと唇を噛み締めた。

 ただ翔太が変わってしまった事は、自分にはどうする事も出来ないと分かってた。今はそこまで子供じゃない。でも悲しいと思う事はどうしようもない。

 だから、もう翔太の事を思い出さない様に、自分の奥底にしまっていたのに。再び顔を合わせて、また話が出来て、昔の頃に戻った様で浮かれていた。

 なんであの嵐の夜、連絡してしまったんだろう。本当に自分は馬鹿だ。勝手な事をして、勝手に傷ついてる。あの日、メッセージなんか送らなければ、翔太のあんな顔を見る事もなかった。

「無理、ごめん」と呟いた翔太は悲しそうな、苦しそうな、全く自分の知らない大人な顔をしていた。

(もう何も、何も考えたくない……)

 華は目を閉じて、自分に暗示をかける様に眠りに落ちた。


つづく