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「けっこう雨降ってるね」

 三人で登校しようと玄関を開けると、しとしとと雨が降っているのが見えた。

「珠子ちゃん、傘ないから入れて〜」

 赤い傘を持った私に体を寄せてくる幸夜くんは、予想した通りだった。

「パパの傘使っていいよ」

 予感していた私は、傘立てからすっとパパの長傘を抜き取る。

「咲仁くんも使ってね」

 パパの傘は普段使いの紺色と、急な傘に降られたときにコンビニで買ったビニール傘があった。
 幸夜くんは下唇を突き出していかにも不満そうな顔をしているけど、大人しく私の差し出したビニール傘を受け取った。
 咲仁くんも幸夜くんが取らなかった紺色の傘に手を伸ばしたけど、柄をつかむ前にその手が止まった。

「どうかした?」

 リビングの方を振り返る咲仁くんに首を傾げると、幸夜くんが唇を引っ込めた。

「忘れもの?」

「ああ。悪い、先に行ってろ」

「りょーかい」

 咲仁くんはいつも通りの硬い口調。幸夜くんはいつもと変わらない柔らかい口調。でも声が、硬質だった。
 硬い幸夜くんの声は、やっぱり咲仁くんと双子なんだなって感じさせる。

「わーい、珠子ちゃんと二人っきり! 行こう行こう〜」

 咲仁くんから私に視線を戻した幸夜くんの声は、いつもの調子に戻っていた。
 私の肩に手を置いて促してくる。

 一人残る咲仁くんが気になって振り返るけど、咲仁くんはリビングに目を向けたままこちらを振り替えなかった。

「幸夜、カミナリには気をつけろよ」

 振り返らないまま、言う。

「はぁい」

 咲仁くんに返事をする幸夜くんの声は、口調とは裏腹にやっぱり硬い。
 幸夜くんにマンションの廊下に押し出されて、咲仁くんを一人残して玄関の扉が閉まる。
 二人の様子がおかしいと思ったのに、なんと言えばいいのかわからなくて私は黙ったままだった。