嘘に恋するシンデレラ




 家の中をひと通り調べてみたけれど、なくした記憶への手がかりは特に何も見つからなかった。

 何だか疲れてしまってソファーでうつらうつらしていると、再びインターホンが鳴った。

 時刻は午後4時過ぎ。
 放課後の時間帯だ。

(また、愛沢くんかな?)

 結局あれから学校へ行って、下校中に再び寄ってくれたのかもしれない。

 そんなことを考えながらドアを開けるも、待っていた人物は想像とちがっていた。

「星野くん」

 確かめるようにその名を呟く。

 昨日と同じ制服姿で鞄を持っていて、学校帰りなのだろうことが見て取れた。
 ふわりと柔らかく微笑みかけてくれる。

「よかった。こころ、覚えててくれたんだ」

「……うん、ずっと考えてたから」

「僕のことを? それは嬉しいなぁ」

 はにかんだ彼に思わず小さく笑った。

 星野くんも星野くんで、どう接するべきか正直決めかねているみたい。

 以前とはちがうわたしとの距離感を慎重に測っている。
 ただ純粋に心配してくれている気持ちもあるのだろうけれど。

「僕もずっとこころのこと考えてた。どうしてるかな、大丈夫かな、って心配で……会いたくなって」

「ありがとう、気にかけてくれて。……あ、上がってく?」

「ううん、ここで大丈夫。落ち着かないでしょ? こころにとっては初対面みたいなものだし」

 曖昧に笑った星野くんは「あ」と思い立ったように慌てる。

「こころって呼び方も馴れ馴れしかったかな。灰谷さん、の方がいい?」

 控えめに尋ねられて、気づいたら首を横に振っていた。

「ううん、こころでいいよ。そう呼んで欲しい」

 ゆったり笑い返しながら言うと、ほっとしたように彼も表情を緩める。

「分かった。じゃあ、こころ」

 確かに初対面同然なのだけれど、不思議と不安は感じない。
 彼といると心があたたかくなって居心地がいい。

「今日はどんな感じ? 変わりはない?」

「……うん、特には」

 何となく、愛沢くんが来たことは言い出せなかった。
 病室でのふたりの様子や主張の食い違いからして、歓迎されるような状況じゃないことは明らかだ。

 それ以外は特別起伏(きふく)のない一日だった。
 怪我を負っていることや記憶をなくしたせいで悶々(もんもん)としていることを除けば。

「記憶も……変わらずかな」

 そう言うと、星野くんは昨日と同じように「そっか」と頷いたけれど、今日はどこか吹っ切れているように見える。

「大丈夫だよ」