「……で、怪我は? 身体は何ともねぇの?」
「それは……うん、何とか」
曖昧な笑みを浮かべて明言を避ける。
彼の前では何ごとも曖昧にしておこう。
その方がぼろを出すリスクを低められる。
「そっか。……よかった」
安堵したように息をつき、しみじみと呟いた。
その反応が意外で素直に驚いてしまう。
自分でやっておいて、なんて演技がうまいんだろう。
(本気で心配してるみたいな顔して)
きっとこれまでもそんなふうに、器用に思惑を隠してきたんだ。
「なあ」
怪訝な目で見つめてしまうと、ふいに呼びかけられた。
ぎくりとしたけれど、彼が何かに気づいた様子はない。
「どこまで覚えてんのかよく分かんないから、改めて言っとくけど……俺はおまえと付き合ってる」
やはりと言うべきか、隼人はそう主張した。
だけど、嘘をついているわけじゃない。
それ自体は紛れもない事実だといまなら分かる。
ここから矛盾や綻びを引き出せれば、本当は記憶があることを明かして問い詰められる。
彼と決別する機会を作れる。
「そう、なの?」
「やっぱ覚えてないんだ」
見極めるような鋭い眼差しでじっと見つめられる。
表情からも声色からも、その本心が透けてくることはなかった。
いずれにしても自ずと不安が高まっていく。
身を強張らせてしまいながら、ひやひやしたまま動向を見守った。
「そうだ、星野とはもう話した?」
膝を折った彼に何気なく聞かれ、一拍遅れて心臓が跳ねる。
「えっと、ううん。その星野くん? のことはあんまり覚えてなくて」
とっさに嘘をついておく。
彼とのことを勘繰られると何かと都合が悪い。
その言葉を聞いた隼人は、ふ、と息をこぼすように笑う。
「……へぇ、それはよかった」
あまりに冷ややかな、それでいて満足そうな表情。
ぞくりと背筋が冷えた。
「どうして……?」
「決まってんじゃん。おまえが振り回されないで済む」
即答だった。
そう言われるとは思わなかった。
「昼休みにまた話そっか。おまえが忘れてること教えてやるよ」
「あの……学食でもいい?」
教室でも人目は十分だと思うけれど、それでは星野くんが近づけない。
その点、学食なら人混みに紛れ込むことができる。
“隙”を作らないようにしないといけない。
星野くんとは協力すると決めたんだ。その力を借りない手はない。



