嘘に恋するシンデレラ

     ◇



 いつも隼人が来る時間よりも早く家を出て、星野くんと落ち合う。
 ふたりで学校までの道を歩き出した。

「わたし、どんな顔して隼人と接すればいいんだろう……」

「あからさまに避けたり態度を変えたりするのは逆効果だろうね。下手なことせずに“隙”を与えないのが一番だと思う」

 暴力を誘発(ゆうはつ)したり助長(じょちょう)したりする可能性もある。
 なるべく友好的に接し、隼人の望む従順な自分を演じておくのが安全策。

 夜にひとりになるとか、逃げ道のないところで彼とふたりきりになるとか、そういう隙を見せない。
 そもそも手出しさせない。できないようにする。

「それで何か証拠でも掴めれば……」

「うん、前の分もあるし今度こそ警察に突き出せるかも」

 その言葉に顔を上げた。

「じゃあ、隼人には記憶のないふりした方がいいかな?」

「そうだね、それがいいと思う」

 時間稼ぎになるかもしれないし、あるいは何かいままでと主張や態度を変えるかもしれない。

 眉を寄せてうつむいた。
 不安や恐れる気持ちに圧迫されてしまう。

「できるかな……」

「大丈夫」

 優しくもはっきりと告げた彼が、気づかないうちに握り締めていたわたしの手を包み込んでくれる。

「僕がついてる。何も怖がらなくていいよ」



 星野くんと別れて教室で待っていると、予鈴が鳴る頃に隼人が現れた。

 どことなく不満そうにも見える険しい面持ちで歩み寄ってくる。

 その姿を目にしただけで、心臓を鷲掴(わしづか)みにされたような気分になった。
 全身に緊張が走り、どうしても身構えてしまう。

「来てたんだな」

「あ、うん。えっと……」

 恐怖心を押し込めて、困惑するふりをしながら見返す。
 星野くんと話し合った通り、再び記憶を失ったと思わせないと。

 眉を下げて窺うように見やれば、それだけで察するものがあったようで、はっと目が見張られる。

「おまえ、まさかまた記憶が……?」

 控えめに尋ねられて頷いた。

「……うん。でも、ぜんぶじゃない」

「どこからどこまで?」

「隼人のことは何となく」

「何となく……」

 (すが)るようにこちら見つめていた彼は、わたしの言葉を小さく繰り返す。
 ショックを隠しきれていないのが見て取れた。