嘘に恋するシンデレラ


 もしかすると、わたしが隼人を選ぶよう仕向けることそのものが目的だったわけじゃないのかも。

「“復讐”だったのかな」

 ぽつりと呟くと、驚いた様子の星野くんはすぐに眉を寄せた。

「復讐……?」

 プライドと自尊心が高い隼人は、わたしを自分の“所有物”だと思って、何でも思い通りにできると信じていたから。

 別れを切り出されたことが許せなかった。逆上(ぎゃくじょう)した。
 ばかにされた、とさえ思ったかもしれない。

 その出来事、わたしとの関係を“汚点”だと思って、なかったことにしようとした?

「隼人、別れ話を受け入れなかったって言ってたよね。意に沿わないことを言い出したわたしを逆恨みしたのかも」

「それで突き落とした?」

 確かめるような星野くんに小さく頷く。

「わたしが記憶を失ったのは、たぶん隼人にとって願ってもみないラッキーだった。そのうちに丸め込んで、またちゃんと付き合い始めてから手にかける計画だった。仕返しのつもりで」

「それが昨日……こころを突き落とした理由なんだ」

 憶測に過ぎないけれど、何となく隼人の目的が見えてきたような気がする。
 ここまでのこと、すべてが彼のてのひらの上だったら────。

「星野くん」

 改まってその名を呼ぶと、彼も真剣な眼差しでこちらを見返した。

「都合がいいのは分かってるけどお願いがある。……協力、してくれないかな」

 今度こそ、ちゃんと隼人と別れられるように。
 彼の脅威を退(しりぞ)けるには、星野くんの手を借りるしかないような気がする。

「うん、もちろん」

 間を置くことなく返事が返ってくる。

 いつも通りの星野くん。
 わたしのよく知っている彼の表情と言葉。

 それが、こんなにも嬉しくて心強いなんて思わなかった。

「言ったでしょ、こころのためなら何でもする。また僕を頼ってくれて嬉しいよ」

 彼がいてくれて本当によかった。
 何度目か分からないその思いが込み上げては、淡く昇華(しょうか)していく。

「……もしかしてわたし、前にも同じことを?」

「僕を試してるのかと思った」

 星野くんは眉を下げて笑う。
 何だか気が抜けて、つられるように小さく笑った。

「本当にありがとう。わたし、星野くんを信じる」

 そう伝えると、柔らかく微笑んだ彼に優しく手を握られる。
 温もりが溶け合って心地よかった。