袖を戻すと、服の上から優しく包み込まれる。
じわ、と思いがけず涙が滲んだ。
彼は変わろうとしている、なんて期待は確かにぜんぶ、自分を守るための思い込みだったのかもしれない。
隼人を正当化しないと、救いがなかったから。
「……いままでよく我慢してきたね。よく、ひとりで耐えてきたね」
「……っ」
星野くんが指先でそっと頬を拭ってくれる。
わたしは声も出せないままただ泣いていた。
壊死しかけていた心が色を取り戻していくと、目の前を覆っていた霧が晴れたような気がした。
「……ごめ、ん。ごめんね。星野くんはずっと、このことを言ってくれてたんだね」
最初から彼が注いでくれていた純真な想いには、疑いの余地なんてなかったのに。
「気づかなくて……信じられなくてごめん」
「いいんだよ。遠回りしたけど、伝わってよかった」
星野くんに付き添われながら病室へ戻ると、すとんとベッドに腰を下ろす。
彼もそばの椅子に座った。
頭をよぎるのは先ほどの写真の光景。
隼人がわたしをつけ狙っていたことを示すような証拠写真。
「でも、わたしを突き落としたのが隼人だとして、何でそんなこと……」
「それはさっきも言ったように、僕を犯人に仕立て上げるためじゃないかな」
確かに彼は未だわたしと星野くんの仲を疑っていたわけだし、ありえない話ではなかった。
そうやって星野くんを貶めて、わたしから遠ざけようとしたのかもしれない。
眉を寄せたまま考え込むわたしを見やり、彼は首を傾げた。
「どうかしたの?」
「……なんていうか、それだけじゃない気がして」
あれほど好きだと言ってくれた隼人の望み通り、わたしは再び自らの意思でそばにいることを決めた。
それなのに、どうしてこんな目に遭わされなきゃならないんだろう。
そもそも最初にわたしが頭を怪我して、階段から落ちて記憶を失ったとき。
それも結局うやむやになっていたけれど、こうなった以上、彼の仕業だったのではないかと考えてしまう。
(そのときは何がしたくてそんな行動に出たのかな……?)
星野くんの言うように、彼になすりつけて悪者に仕立て上げ、わたしを助けることで元の鞘に収まるよう画策したのだろうか。
もしそうなら、確かに成功している。
まんまと隼人の思惑通り。
わたしは星野くんを信じられなくなったし、正直に打ち明けて向き合ってくれた隼人には誠実さと好意を感じた。
だからこそ、そばにいようと思った。
(だけど、それなら昨日また突き落とす理由なんてある?)



