嘘に恋するシンデレラ


 ずっと夢みながら待ち続けてきた、たったひとりの運命の人。

 差し伸べられた手を取ったとき、直感した。
 “彼”こそがそうなんだ、と。

 ────果たしてそれは誰だったんだろう。

 失った記憶に紛れた真実を、わたしの身に起きた一件の真相を、もう一度探らなきゃならない。



 ぼんやりと何かの音が聞こえる。
 水の中にいるみたいにくぐもって遠かったのが、だんだんはっきりと大きくなっていく。

「……が、……だろ」

「そ……ない。きみが……」

 音が声だと分かると、その声を言葉として認識できてきた。

「おまえは出てけよ」

「僕が従うと思う?」

 だんだんと意識がはっきりしてくる。
 その明瞭化(めいりょうか)に伴って、ほうけていた五感が我を取り戻す。

 うっすら目を開けると、見覚えのある白い天井が見えた。
 耳に割り込んでくるのは口論するような声。
 つん、と消毒のような特有のにおいが鼻につく。

「痛……」

 起き上がろうとしたとき、身体のあちこちが痛んで(はば)まれた。
 思わず呟くと、ふたりの声が止む。

「こころ」

「大丈夫?」

 慌ててこちらを覗き込む、心配そうな表情。
 起き上がり直しつつ、隼人と星野くん、それぞれの眼差しを思わず見比べてしまう。

(また……)

 わたしはまた、歩道橋から突き落とされた。
 きっと、ふたりのうちどちらかの仕業。

(どっちが……? 何で?)

 どうして再びこんな事態になったのか、頭が混乱していた。

 だけど、状況が一周したことで、ふたりの印象もかえってフラットなものになった。
 やっぱり、簡単に信じるべきじゃなかったんだと思い知らされる。

 ────検査を経て、診察室で先生が重たげに口を開く。
 以前、ここで目を覚ましたときと同じ、メガネをかけた真面目で優しそうな先生。

「幸い、検査結果に問題はないんですが……。実はこの間と同じ状態だったんですよ」

「と、いうと……」

「通報が入って駆けつけたところ、灰谷さんは歩道橋の階段下に倒れてました。以前と同じく通報者の姿がなくて」

 今回に関しては何となく覚えているけれど、偶然にしてはあまりに不自然だ。

 犯人は以前突き落とされたときと同一人物だろうか。
 それとも、別なのだろうか。