嘘に恋するシンデレラ


 それを聞いた瞬間、涙がこぼれ落ちた。
 彼は労るようにそっとわたしを起こして抱き締める。

 実際にダメージを負ったはずの腕や腹部や表面的なところより、心がちぎれるほど痛かった。

「ごめんな。おまえのことが心配なだけだったのにさ、頭ん中ぐちゃぐちゃになって……」

 目を閉じると、涙が頬を伝い落ちていく。

 わたしはどうして泣いているんだろう。
 どうしてこんなに胸が痛いのだろう。

「本当ごめん」

 声が詰まって答えられなくて、代わりに何度も頷いた。

 暴力的に怒りをぶつけては、ふと我に返って平謝り────空白の1年の中で、何度繰り返したか分からない。

 そのたび怖くて、痛くて、苦しくて、深く絶望させられる。
 だけど、こうやって抱き締められると、優しく微笑まれると、不思議と痛みがなくなっていく。

 いびつな愛が全身にまとわりついていた。
 異常だと分かっていても、彼の温もりにひどく安心している。

「好きなんだよ。それだけなのに……」

「分かってる、分かってるよ。大丈夫だから……」

 つい気が抜けて、信じて許してしまいそうになる。
 そうしたら想いに飲まれ、あとには何も残らないというのに。



     ◇



 星野くんを避けながら隼人と過ごす日々が日常になりつつあった。

 視線を感じては気づかないふりを決め込んでいるけれど、うっかり目が合うといつも何か言いたげな、不安そうな表情をしている。

 突き放したのに、彼にしては随分諦めが悪い。
 いちいち惑わされないように、その存在をなるべく頭から追い出そうとした。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

「じゃ、俺戻るな」

「うん……またあとで」

 返された空っぽのスマホを受け取りつつ、教室から出ていく隼人を見送った。
 星野くんのアカウントはとうに消えている。

 小さく息をつきながら、ブラウスの袖をめくってみた。

 顔を覗かせる紫色の痣────。
 腕のほか、普段は見えないところにいくつも刻まれている。けれど。

(大丈夫)

 そう言い聞かせながら唇を噛み締めた。

 隼人は変わり始めている。
 わたしが我慢していれば、そのうち本当に分かってくれるはず。

(殴られたり蹴られたりしてもすぐに謝ってくれるし、そしたら優しい隼人に戻るし……)

 彼だけが悪いわけじゃない。
 わたしにだって責められるだけの非があるのだから、これは仕方のないこと。