心臓を鷲掴みにされたような気がした。
見られていたのか気づかれたのか、いずれにしても血の気が引くような焦りを覚える。
「も、もう関わらないでって言いにいっただけ。隼人が心配するようなことなんて何もないよ」
「はあ? 俺に嘘ついてこそこそ会ってたくせに信じられるわけねぇだろ。だったら最初からそう言っていけよ」
「でも本当なの! それに、正直に言ったって隼人は絶対許してくれないでしょ」
そう言った途端、頬に衝撃が走る。
遅れて痛みと熱が宿り、打たれたのだと理解した。
「口答えすんな。生意気なんだよ」
「な……」
「気弱で臆病で俺がいないと何にもできない意気地なしのくせに、勝手なことしてんじゃねぇよ」
否定したり非難したりする隙も与えられないまま再び頬に、腕に、鈍い痛みが走る。
てのひらが拳になって、足に変わった。
歯を食いしばって耐えようとしても、悲鳴がこぼれてしまう。
「ぜんぶおまえのせいだからな!」
怒声が耳をつんざき、言葉に心を抉られる。
「……っ」
「見境なく愛想振りまいてふらふらしてんじゃねぇよ。そんなだからあいつもつけ上がるんだろうが」
容赦なく蹴られては踏みつけられる。
痛みと衝撃が内側まで響き、すぐに力が入らなくなった。
「……ん、ごめん……なさい」
気づけばそんな言葉を呪文のように唱えていた。
涙で何も見えない。
痛みで何も考えられない。
(思い出した……)
こんなことを、わたしたちは繰り返していたんだ。
一度こうなってしまうと、もう話なんて通じない。
床にうずくまって、心を押し殺して、彼が本当の自分を取り戻してくれるまで待つことしかできない。
以前のわたしはそうやって、必死で自分を守ってきた。
以前のわたし、なんて分け方は、本当は間違っているのかもしれない。
記憶を失う前の自分も確かに自分だから。
その境界線がぼやけていくことが、わたし自身が統合されていくことが、もしかしたら“すべてを取り戻す”ということなのかもしれない。
ややあって静寂が訪れた。
彼の荒い息遣いとわたしの微弱な呼吸、それしか聞こえない。
「こころ……」
毒気の抜けた彼の声がした。
とさ、とそばに屈む。
手が伸びてきて、びくりと怯んだ。
けれど、覚悟した痛みは訪れない。
頬にかかった髪を流してくれる。
あまりに優しい手つきに、身体中の強張りが解けていく。
「……ごめん」



