嘘に恋するシンデレラ


 信じられないよ、とは続けられないまま、力なく掠れた声がわたしの中で溶ける。

 星野くんは一度うつむいてから、そっと顔をもたげた。

「そのために、余計なこと考えるのやめる。僕も手段なんて選んでられないから」

「え?」

「もう遠慮したり譲ったりできない。そんな悠長(ゆうちょう)に構えてられない。それでもいい?」

「どういう、意味……?」

 彼を見返す双眸(そうぼう)がゆらゆら揺れるのを自覚する。
 星野くんの言動は少しも揺らがなかった。

「僕がこころのそばにいる。あいつじゃなくて、これからは僕と一緒にいて」

 心臓が沈むような音を立て、速まっていく。
 迷い、惑わされるリズム。

 それでも、ふるふると首を横に振りながら逃れるようにあとずさった。
 何だか脚が棒みたいに強張っている。

「それは、できない……」

「どうして」

「さっきも言ったけど信じられないの。星野くんが嘘ついてるって分かるから」

 震える声で紡ぐと、彼は言葉に詰まったように瞬く。
 苦しげに表情を歪めても、否定はしてくれなかった。

 “完璧”な彼の仮面が剥がれ始めている。
 その欠片が足元に積もりつつあった。

「……でも、だめだ。一緒にいてくれないと困る。僕の言うこと聞いて」

 意外だった。
 彼がそこまで言うなんて。

「こころは何も話さなくていい。信じられないなら信じなくてもいいから」

 (せつ)に訴えかけてくるような声色。
 引き下がるつもりなんていささかも持ち合わせていないみたい。

「お願いだから……手の届く距離にいて。ちゃんと守らせて」

 どきりとした。
 以前の愛沢くんの言葉を思い出してしまう。

『もう離れないで欲しい、片時も。俺の目の届く範囲にいてくれ』

 そう言った彼は、実際にわたしを監視するように束縛し始めた。

(星野くんも……)

 “手の届く距離”に閉じ込めるために、あんなことを仕出(しで)かしたのだろうか。
 騙し討ちのような形でわたしな意識を奪って、家に軟禁(なんきん)しようとして────。

 ますます頷けなくなった。
 はっきりと拒絶しないと、結局また同じような目に遭わされる気がする。

「……ごめんなさい。もう、わたしのことはほっといて」

 目を合わせないまま、今度こそきびすを返して駆け出した。

 伸ばされた手をすり抜けて、呼び止める声を置き去りに。



 ────玄関のドアが閉まる。
 その瞬間、がっといきなり乱暴に髪を掴まれた。

「痛……!」

 足元に鞄が落ちる。
 わたしはそのまま放られるように廊下の床に崩れ落ちた。

 (かたわ)らに屈んだ愛沢くんを、信じられない気持ちで見つめる。

「なに、その顔。自覚ねぇのかよ」

「え……?」

「屋上に星野といただろ。なに話してたんだよ」