◇
翌日の昼休み、以前のように愛沢くんの目を掻い潜って屋上へ向かう。
示し合わせたわけではないけれど、星野くんがそこにいるだろう予感が何となくあった。
果たして思った通り、彼はひとり佇んでいる。
警戒を滲ませながら歩み寄ると、声をかけるより先に振り向いた。
「来てくれて嬉しいよ」
いままで通り、穏やかで柔らかい微笑みを向けられる。
けれど、いまはそこに儚げな影がさしていた。
「先に謝らせて。無断であんなもの渡したって知って、きっと気を悪くしたよね。本当にごめん」
それはGPSのことだろう。
気づいたあと、すぐに壊して捨てたから信号が途絶えたんだ。
「どういうつもりだったの……? わたしのこと、監視してた?」
「そう、だね。僕としては見守ってたつもりだったけど」
肩をすくめる星野くんは、悪びれはしても悪意はないと言いたげだった。
その思惑も意図もどんどん不透明になっていく。
「いいように言わないでよ……。わたし、正直もう星野くんのことは信用できない」
「……ちょっと待って」
「それを伝えにきたの。だからもう、わたしに構わないで」
なるべく凜と言い放ってしまいたかったのに、不安を隠しきれず必死になる。
目を落としたままきびすを返すと、手を引かれた。
繋ぐように優しく握られて、思わず振り向いてしまう。
髪や裾がふわりと翻った。
「待って。まだ終わってないから」
ふいに喉元で呼吸が詰まる。
つい動揺してしまいながらもその手を振りほどいた。
「終わったの! もう決めたんだよ。これ以上振り回されたくない」
「分かるよ、きみの立場だったら何も信じられなくなって当然だと思う。疑いたくなる気持ちも分かる」
星野くんは諭すように言うと、慎重にあとずさって距離をとってくれた。
「だから、どうしても信用できないって言うならこのまま話そう。手首とか、これで縛ってくれても構わないし」
ネクタイに触れる彼に、慌てて首を左右に振る。
「そ、そこまでは……」
「だけど、この間のこともあるし……怒ってない?」
紅茶の香りを思い出すと、同時に彼の狂おしいほど甘い微笑みまで蘇ってきた。
無意識のうちに粟立つ腕を抱く。
「怒ってはないけど、びっくりしたし怖かった。星野くんなのに星野くんじゃないみたいで」
「……そのことも謝るよ。ごめんね。僕、もうだいぶ余裕なくて」
沈痛な表情も申し訳なさそうな声色も、どこまでが本当か分からない。
どこまで信じるべきなんだろう。
深い疑心が渦巻いたとき、意思の強い真剣な眼差しを向けられる。
「ただ、これだけは分かってて欲しい。何度でも言うけど、僕はこころに幸せでいて欲しいだけ。こころを守りたいんだ」
「そんなの……」
翌日の昼休み、以前のように愛沢くんの目を掻い潜って屋上へ向かう。
示し合わせたわけではないけれど、星野くんがそこにいるだろう予感が何となくあった。
果たして思った通り、彼はひとり佇んでいる。
警戒を滲ませながら歩み寄ると、声をかけるより先に振り向いた。
「来てくれて嬉しいよ」
いままで通り、穏やかで柔らかい微笑みを向けられる。
けれど、いまはそこに儚げな影がさしていた。
「先に謝らせて。無断であんなもの渡したって知って、きっと気を悪くしたよね。本当にごめん」
それはGPSのことだろう。
気づいたあと、すぐに壊して捨てたから信号が途絶えたんだ。
「どういうつもりだったの……? わたしのこと、監視してた?」
「そう、だね。僕としては見守ってたつもりだったけど」
肩をすくめる星野くんは、悪びれはしても悪意はないと言いたげだった。
その思惑も意図もどんどん不透明になっていく。
「いいように言わないでよ……。わたし、正直もう星野くんのことは信用できない」
「……ちょっと待って」
「それを伝えにきたの。だからもう、わたしに構わないで」
なるべく凜と言い放ってしまいたかったのに、不安を隠しきれず必死になる。
目を落としたままきびすを返すと、手を引かれた。
繋ぐように優しく握られて、思わず振り向いてしまう。
髪や裾がふわりと翻った。
「待って。まだ終わってないから」
ふいに喉元で呼吸が詰まる。
つい動揺してしまいながらもその手を振りほどいた。
「終わったの! もう決めたんだよ。これ以上振り回されたくない」
「分かるよ、きみの立場だったら何も信じられなくなって当然だと思う。疑いたくなる気持ちも分かる」
星野くんは諭すように言うと、慎重にあとずさって距離をとってくれた。
「だから、どうしても信用できないって言うならこのまま話そう。手首とか、これで縛ってくれても構わないし」
ネクタイに触れる彼に、慌てて首を左右に振る。
「そ、そこまでは……」
「だけど、この間のこともあるし……怒ってない?」
紅茶の香りを思い出すと、同時に彼の狂おしいほど甘い微笑みまで蘇ってきた。
無意識のうちに粟立つ腕を抱く。
「怒ってはないけど、びっくりしたし怖かった。星野くんなのに星野くんじゃないみたいで」
「……そのことも謝るよ。ごめんね。僕、もうだいぶ余裕なくて」
沈痛な表情も申し訳なさそうな声色も、どこまでが本当か分からない。
どこまで信じるべきなんだろう。
深い疑心が渦巻いたとき、意思の強い真剣な眼差しを向けられる。
「ただ、これだけは分かってて欲しい。何度でも言うけど、僕はこころに幸せでいて欲しいだけ。こころを守りたいんだ」
「そんなの……」



