嘘に恋するシンデレラ


「散々傷つけといていまさらだって分かってるけど……だからこそ、今度は守りたいんだ。すぐには信じてもらえねぇかもしんないけど」

「隼人……」

「でも、これだけは言える」

 毅然(きぜん)と立ち上がると、わたしの正面で足を止める。
 彼を“怖い”だなんてもう思えなくなっていた。

「おまえはあいつに騙されてる」

 それが星野くんを指すのは明白。
 何度も頭の中を巡る、彼にまつわる不可解なことがまたよぎってどきりとした。

「騙されてる、って……」

「俺が隠してたのはいま言ったことがぜんぶなんだよ。確かにこじれたけど、俺たちは別れてないし、もちろんストーカーでもない」

「どういうこと?」

「俺が元彼とかストーカーとか、そんなのはまるっきりあいつの作り話だってこと」

 胸の内がざわざわと騒いでいた。
 すぐには受け止めきれないけれど、この期に及んで愛沢くんが嘘をつくとも思えない。

「じゃあ、星野くんがわたしの恋人だっていうのも……」

「当然、嘘だろ」

 頭に浮かぶ、柔らかい彼の微笑にひびが入る。
 ぞくりと背中が寒くなった。

「何のためにそんな……」

「とにかく、もう関わらない方がいい。信用できないって分かっただろ?」

 その言葉に、強い不安に(さいな)まれながら小さく頷く。

「確かに……おかしかった。血まみれのハンカチとか持ってたし」

 写真やGPSのことはさすがに口にできなかった。
 (いきどお)った愛沢くんが直接彼の元へ向かったりしたら、と思うと悪い予感しかしない。

「何だよ、それ。見るからに怪しいじゃん」

「だよね……。もしかしたら、わたしの頭を殴ったのも突き落としたのも星野くんなのかも」

「“かも”じゃなくてそうなんだって」

 言い聞かせるような口調だった。
 彼の中ではそれだけが真実なんだ。

「何でかおまえに執着してるあいつが、俺を(おとし)めておまえを騙そうとしてる。何にしても、殴るとか突き落とすとか普通じゃねぇよ」

 癒えたはずの額の傷が疼く。

 頭を殴った犯人に、その行動に、正当性や合理的な理由なんてない。
 悪意があるとしか思えない。

 わたしはただ、嘘つきな星野くんに振り回されていただけなのだろうか。