声も身体も震えてしまう。
自分自身を庇うように両方の腕を抱いて、非難じみた眼差しを向けた。
愛沢くんは怯むことなく、苛立ったように前のめりになる。
「……あいつがそう言ったわけ?」
「ちがう、思い出したの。ここであったこと。隼人にどんなことされたか……」
寒気がして肌が粟立った。
恐怖心が膨れ上がって、素早く鞄を引っ掴む。
「わたし、帰る」
目を合わせられないまま、急いで背を向けた。
けれど、あえなく腕を掴まれる。
「待てよ」
心臓が縮み上がった。
また、あんなふうに────痛くて怖い目に遭わされる。
そう怯んで身を強張らせたものの、予想に反して彼の力は緩んでいった。
する、とすぐにほどかれる。
「……ごめん」
思わぬひとことは真に迫っていて、驚いてしまいながら振り向いた。
彼はうつむいたまま続ける。
「俺、確かに何度もおまえを苦しめた。最低だったと思う」
「認めるの……?」
「認める。おまえの言う通り、暴力振るってた」
いっそう身を硬くしてしまうと、愛沢くんは力なくソファーに腰を下ろした。
「ただ、好きなだけだった。俺にはおまえしかいないって思ってた。ずっと、俺だけのこころでいて欲しくて」
彼が深く息を吸う。
「けど、だんだんうまくいかなくなった。俺のこと、分かろうともせずに否定されて……腹が立った」
過剰な束縛の裏にあった不安を見ようとしないで一方的に決めつけていたみたいに、以前のわたしも彼を受け入れられなかったのかもしれない。
お互いの想いの深さや伝え方に差が生まれて、重ならなかった部分を拒絶した。
そのことが彼を傷つけて、怒って箍が外れた。
「最初はそういう、些細なことがきっかけだったんだ。でも、そのとき思った。こうすれば俺の気持ちが伝わるんだって」
「え……」
「どんなふうにすれ違っても、そうやっておまえを苦しめたり痛めつけたりするとさ、おまえは“ごめんね”って泣いて……ちゃんと俺の言うこと聞いてくれるようになったから」
それは、ちがう。
理解したわけではなくて、ただ苦痛から逃れるために従順なふりをしただけ。
そう言おうとしたとき、愛沢くんが顔を上げた。
「けど、間違ってた。ただ一方的に押しつけてただけだったよな。もう二度としないって約束する」
意外だったけれど、彼も気づいてくれていたみたいだ。
ちゃんと自覚があった。
思えば記憶をなくしてから、何度かそういう危うい兆候はあった。
だけど、そのたびすぐに“ごめん”と自省していた。
その場しのぎの繕いなんかじゃなく、きっと本心で話してくれている。



