嘘に恋するシンデレラ

     ◇



『終わらせてあげるよ、いつでも』

 穏やかなのに底冷えするような彼の声と、壁をびっしり覆っていた盗撮写真、血まみれのハンカチや仕込まれていたGPS────。

 頭の中を巡るたび、現実から攫われる。

(何だったんだろう……)

 彼は何者で、目的は何なのだろう。
 信じたい気持ちを砕かれて、星野くんという人物像を見失っていた。

「なに考えてる?」

 ふと、そんな声が意識を裂いた。
 はっと我に返ると、隣にいた愛沢くんの鋭い瞳に捕まる。

 いまは彼と家にふたりきりで、気の抜けない状況に置かれているのだった。

「ごめん、ぼーっとしてた」

「何か今日ずっと上の空だよな。俺といるのつまんない?」

「そんなこと────」

 とっさに返したとき、ふいに締めつけるような頭痛がした。

 ノイズ混じりの不鮮明な光景ながら、いまと同じように彼の家にいると分かる。
 耳鳴りのせいで音や声は聞こえない。

 振り上げられた右手が勢いよくわたしの頬を打つ。
 その衝撃でテーブルにぶつかり、花瓶やカップが揺れて落ちた。

 床に散らばった陶器の鋭い破片と、あたりを浸す水。
 テーブルのふちからもぽたぽたと滴って、落ちた花を濡らしていた。

 頬を押さえたままうずくまるわたしの元へ、悠々と歩み寄ってくる誰か。
 次の瞬間、腹部を蹴り上げられる。

 あまりの痛みに悲鳴を上げながら倒れ込むと、破片に肌を破られて血が滲んだ。

 震えながら見上げた先には、不機嫌そうな面持ちの愛沢くんが佇んでいる────。

 はっと息をのんで目を開ける。

 以前にも少しだけ蘇ってきた記憶。
 だけど、今回は肝心な部分まで思い出すことができた。

(わたし……愛沢くんに暴力を振るわれてた)

 やっぱり、本能的な危機感や抵抗感は正しかったんだ。
 何度も何度も彼に傷つけられ続けてきた。

「……っ」

 弾かれたようにソファーから立ち上がると、思わずあとずさる。

「こころ?」

「隼人が……“偽物”だったんだね」

 一瞬、呆気に取られた様子で目を見張った彼は、すぐに眉を寄せた。

「あ?」

「わたしに暴力振るってた、ストーカーの元彼」