嘘に恋するシンデレラ


『じゃあ、わたしも』

 そんなふうに、洗ったばかりのハンカチを差し出す。

『渡せるものなくて、こんなのしかないけど……。星野くんと繋がってるって証。お互いにひとりじゃないって思いたいから』

 言ってからはたと冷静になって、こんなのもらっても困るよね、わたしもやっぱり何か用意しよう、なんて慌てた。

 けれど、手を引っ込める前に彼がハンカチを受け取る。
 あたたかく柔らかい微笑みをたたえながら。

『ありがとう。僕もお守りにするよ。いつも持ち歩くから』

 ────これは、そのときのハンカチだ。
 それがどうして血まみれでこんなところに隠されているんだろう。

「こころ」

 ドア越しに声をかけられ、びくりと肩が跳ねた。

 拾った写真とハンカチを急いで元に戻すと、暴れる心臓の音を耳にベッドへ座り直す。

 水の入ったコップを片手に戻ってきた星野くんがドアを開けた。
 つい警戒をあらわに見据えてしまう。

「あれ? どうかした?」

 わたしの波立った感情や渦巻く思考なんて知るよしもなく、いつも通りの微笑をたたえて首を傾げている。

(あの血が……わたしのものだったら)

 階段から転落したときや額に怪我をしたときのものだったら────その実行犯は星野くんということなのだろうか。

 もし本当にそうなら、どうしてそうも平気な顔をしていられるんだろう。

「……ねぇ、わたしに嘘ついてることない?」

 思わず尋ねた声は硬くなった。
 刹那(せつな)、彼の表情が消える。

 けれど、それは本当に一瞬のことだった。
 わたしの見間違いだったかもしれないと思うほど。

「ないよ?」

 星野くんはそう言って微笑んだ。
 色も温度も抜け落ちてしまったかのように冷たく。



 家に帰ると、机の上に鞄を下ろした。
 そこにつけられたくまのキーホルダーを眺める。

(まさか、そんなわけないよね……)

 半信半疑のまま、はさみでその丸いお腹を切り裂いてみる。
 綿と一緒に黒い小さな機械が出てきた。

「GPS?」

 信じがたいけれど“まさか”を裏切らない結果。
 放課後、歩道橋で会ったのも偶然じゃなかったんだ。

「どういうことなの……」

 本当に星野くんがストーカーだというのだろうか。
 彼の話も態度も想いも、ぜんぶ嘘には思えないのに。

 ────本物の恋人は味方で、偽物の元彼の方は敵なのだと思っていた。

(ちがったのかも……)

 “どちらか”じゃない。

 星野くんと愛沢くん、どちらがどちらなのだとしても同じ。
 ふたりともがある意味で危険な存在なのかもしれない。