嘘に恋するシンデレラ


 何気なくあたりを見回してみる。
 8畳くらいの洋室で、大きな家具はベッド、デスクとチェア、本棚くらい。
 デスクの上も棚もきちんと整頓されている。

 ものが少なくてすっきりしているけれど、観葉植物やクッションなんかが置いてあるところが何だか星野くんらしい。

 一見、何の変哲(へんてつ)もない部屋だ。

 そもそもこの中でわたしを自由にさせている時点で、後ろめたい何かを隠している可能性は低いかもしれない。

 ふとクローゼットに目をやったとき、下の隙間から何かが飛び出しているのに気がついた。

 小さな紙か何かだ。
 ベッドから下りると、取っ手を掴んでクローゼットを開けてみる。

「ん……?」

 足元に落ちていたのは、紙ではなく写真だった。
 そこにはわたしがおさまっている。

 日常の一部を切り取ったみたいで、ふいに撮られたような雰囲気があった。
 きっと、このときのわたしは気づいていない。

(盗撮……?)

 そんな言葉がよぎる中、顔を上げて絶句した。

 クローゼットの中の壁面に、余白を埋め尽くすほど写真が貼られていたのだ。

 わたしひとりが写っているものもあれば、愛沢くんといるところを隠し撮りしたようなものもある。
 衝撃的な光景に圧倒されてしまった。

 ────“偽物”の正体はストーカー。
 ふいに再認識させられて、肌が粟立(あわだ)つと同時に呼吸が震える。

「まさか、星野くんが……?」

 ありえない、そんなはずない、ととっさに思った。
 愕然としてチェストに手をついたとき、指先に何かが触れる。

「何、これ……」

 血の染み込んだハンカチだった。
 手に取った瞬間、耳鳴りと目眩がして頭が揺れる。

『わ、かわいい。これくれるの?』

『うん、お守り代わりに。ずっとそばについてられたらいいけど、そうもいかないから……それを僕だと思って』

 星野くんから渡されたのは、ふわふわした毛並みの愛くるしいくまのキーホルダー。
 彼の気持ちも、はにかむような笑顔もくすぐったかった。

『ありがとう、嬉しい』

『辛いときはいつでも頼って。僕はずっと味方だから』

 惜しみない優しさが染みて嬉しいけれど、そう言ってくれた彼の方がどこか不安気に見えた。

 星野くんの言い分が正しいなら、わたしはきっと愛沢くんのことで頼っていたのだと思う。

 だけど、なかなか思うようにならなくてもどかしかった。
 束縛から抜け出せないわたしを案ずるのに疲れてしまっていたのかもしれない。