嘘に恋するシンデレラ


「目覚めのキスはいらなかった?」

 そんな冗談もいまは笑えない。
 あくまで甘い微笑に背筋がぞくりと凍える。

「……っ!」

 自分の身に起きたことを思い出し、慌てて起き上がろうとした。

 だけど、ふわふわする頭と目眩(めまい)(はば)まれる。

「だめだよ、いきなり動いちゃ。気分悪くなっちゃうからね」

 そう言う星野くんに支えられながら上体を起こすと、ベッドの上に座る形になった。

「……何、したの?」

「んー? ちょっと眠らせただけだよ。紅茶、美味しかったでしょ」

 どきりとした。
 何だか舌の奥の方が苦くなる。

「何のつもり……?」

 膨らむ警戒心で声色が(とが)る。
 一方で彼はいっそう笑みを深めた。

「外の世界は危ないから、これからは僕とここで暮らそう?」

 わたしにそう問われることは予想通りだったのか、あらかじめ用意していたみたいに澱みない返答だった。

 思わぬ言葉ではあったけれど、敵意や悪意は感じられない。
 ────ただ、何だか別人みたい。

「それは無理だよ。わたし、帰らなきゃ……」

「待って。ここにいてよ、そしたらもう傷つくこともない」

「でも、わたしをここに閉じ込めるってことでしょ? そんなの犯罪みたい……」

「どうして? こころは自分の足でここへ来たし、いまだって縛られてるわけでもないのに」

 逃げる余地があったのにそうしなかったわたしは完全な“被害者”とは言えない、という主張みたいだ。

「犯罪なわけないでしょ? 恋人同士が一緒に住むだけなんだから」

 うっとりとそう言ってのけると、自身の頬にわたしの手をすり寄せる。

(だめだ……)

 普通に訴えても通じない。
 急速に危機感が沸き立って、焦った。

「で、でもきっと迷惑だよ。星野くんの親にも……」

 彼の両親が帰ってきたら助けてもらう。それしかない。
 そんなことを密かに考えていたけれど、星野くんに(ひる)んだ様子はなかった。

「無駄だよ」

「え」

「ここには僕たち以外誰もいないし、誰も来ないから」

 わたしの思惑はとうに見透かされていた。

 ますます焦ったものの、彼が増長(ぞうちょう)することはなかった。
 その表情に暗い影がさす。

「僕の両親もこころと同じ。……もうこの世にいないんだ」

 息をのむ。
 鉛のように心臓が重たく打ったとき、ふいに頭痛がした────。

『同じだね、僕たち。……ひとりぼっちで、本当の自分を見せられる相手もいない。見ようともしない人たちに、見たいように見られてるだけ』