嘘に恋するシンデレラ


 ゆるりと振り向いた彼は、わたしを認めて驚いたように目を見張った。

「こころ……。大丈夫なの? あいつは?」

「……どうしても、星野くんと話したくて」

 きっと心配させるだけだから、はっきりとは答えないでうつむく。
 彼が何か言うより先に「あの」と切り出した。

「わたしのこの怪我のこと、何か知ってるんだよね?」

 前髪を分けて見せる。
 額の皮下血腫(ひかけっしゅ)(あざ)のようになっており、切り傷も塞がったためガーゼはもう当てていない。

 こう尋ねるのは2度目だった。
 けれど、前よりいくらか確信がある。

 確かめるような言い方をすると、星野くんの瞳が揺れた。
 とっさに言葉が出なかったようで、表情を強張らせている。

 いずれにしても、しらを切るには時間をかけすぎた。
 事実であれ偽りであれ、何か口にするしかない。

「────その前に」

 ややあって返ってきた彼の声は、予想よりも落ち着いていた。

「こころの話をしよう」

「わたし、の……?」

 今度はわたしが困惑してしまう。
 いったい何の話をするつもりなんだろう。

 ざぁ、と緩やかに髪を揺らす風が、神経質に(とが)っていた空気を(さら)っていった。

「こころはね、運命の出会いに憧れてたんだ。そう言ってた」

 どこか懐かしむようなその表情は、穏やかで清々しく見える。

 意外だった。
 しないと言いきった過去の話を持ち出すなんて。

「昔から童話が大好きで、自分もいつか王子さまに出会えるって信じてる。そんなふうに」

 そのとき、唐突に耳鳴りがした。
 頭痛の響く頭の中にノイズ混じりの映像が浮かぶ。

『わたし、小さいときからお話が好きだったの。海外の童話とか、王子さまやお姫さまが出てくるような』

 少し照れくさく思いながら打ち明けた話を、誰かが聞いてくれている。
 影に侵食されているみたいで相手の顔は見えない。

『だからかな。大きくなったら、わたしも運命の人と出会えるんだって思ってた。ずっと憧れてた。……彼がそうなんだって信じてたんだけど』

 ぎゅ、と掴んだ自分の腕には痛々しい痣が残っている。

『そんなことなかったんだね』

 消え入りそうに呟いて涙をこぼした。

 ────思わず瞑っていた目を開けてみる。

 いまの話を踏まえると、話していた相手は星野くんだったのだろうか。

「だから……僕がそうだったらいいのにって思った。きみの運命の相手なら」