嘘に恋するシンデレラ


【家着いたか?】

 彼から頻繁(ひんぱん)に届くメッセージ。
 どれも5分以内に返信しなければ機嫌を損ねてしまう。

【いま着いたよ!】

 こちらの都合なんてお構いなしの愛沢くんは、深夜にいきなり電話をかけてくることもある。

 わたしは彼が眠るまで、常に気を張っていなければならなかった。

 ────とっくに日付をまたいだ夜更(よふ)け、ようやく愛沢くんからの返信が途絶えた。
 深々とため息をつく。

(疲れた……)

 精神をすり減らし怯えながら過ごす毎日。
 記憶のことなんて気にかけている余裕もない。

 こんなにも自分を犠牲にして、どうして彼のそばにいなければならないんだろう。

 四六時中、監視されている状態といっても過言ではなかった。
 逃げようにも逃げられない。

(もう嫌……)

 鬱々(うつうつ)と息苦しくなるたび、思い出すのは星野くんのことだった。

 彼ならこんなことはしないだろう。
 わたしを追い詰めるようなことは、絶対に。

 どうして、こんなことになってしまったんだろう。



     ◇



 放課後、愛沢くんが友だちと遊びにいってくれたお陰で久しぶりにひとりの時間を得た。

 開放感に浸りながらアパート前へさしかかったとき、ふいに横から腕を引かれる。
 はっとして見ると、驚いたことに星野くんだった。

「やっと捕まえた」

 やわく微笑んだ彼は、それから慎重にあたりを見回す。

「今日は、あいつは?」

「い、いないよ。友だちと予定があるみたいで」

 ほっとしたように腕がほどかれる。
 やっぱり、彼はいつだってわたしから選択肢を奪わない。

「それより、星野くんはどうして……」

 言い終わらないうちに、ふわりと優しく抱き締められていた。
 あたたかくて、甘くて心地いい。

「……心配してた。連絡もつかなくなって」

「ごめん、わたし……」

「大丈夫、言わなくても分かってる」

 そっと離れると、その瞳の中心にわたしが映っていた。

「会いたかった。話したかった。でも、僕が動くとこころが何されるか分からなくて……」

 実際、愛沢くんの(たが)はもう外れる寸前のところまで来ている。
 それで諦めざるを得なかったんだ。

(ぜんぶ愛沢くんの思惑通りに……)

 ふと、伸びてきた彼の指先が労るように頬を撫でる。
 図らずも心が震えて、目の前がゆらりと揺れた。

「守れなくてごめんね」