嘘に恋するシンデレラ


 慌ててそのあとを追いかけた。

 誤解して欲しくない。
 彼を責めたいわけでも傷つけたいわけでもないのに。

 ばたん、と目の前でリビングのドアが締められる。
 まるでわたしを拒絶するようだった。

(どうしよう)

 すっかりうろたえて立ち尽くしていると、ダン! と打撃音が響いてきた。
 突然のことにびくりと肩が跳ねる。

(なに……?)

 続いて、ガシャン! とガラスの割れるような騒々しい音がして、思わず硬直してしまう。

 そのときだった。
 ずき、と締めつけられるように頭痛がして耳鳴りに襲われる。

 ────床に散らばった陶器の鋭い破片と、あたりを浸す水。
 テーブルのふちからもぽたぽたと滴って、落ちた花を濡らしていた。

 そこにうずくまるわたしは頬を押さえていて、おもむろに誰かの足が近づいてくる。
 次の瞬間、それが腹部めがけて振り上げられた。

「……っ」

 息をのんであとずさる。

 それが愛沢くんだったのかは分からないけれど、おののいたままきびすを返した。

 おぼつかない足取りで家を飛び出す。

(あれが愛沢くんの本性なの……?)

 血の気が引いていた。
 怖い。怖くてたまらない。



     ◇



 彼の家で衝撃的な姿を目の当たりにしてから数日。
 愛沢くんと過ごす日々は、依然(いぜん)として変わっていない。

 朝も帰りも休み時間も、ひとときとして彼はわたしを放そうとしない。

 特に辛いのは放課後。
 愛沢くんの家で過ごすことを()いられ、わたしは常に戦々恐々(せんせんきょうきょう)としていた。

 周囲の目がないからか、それともあの日一度わたしに本性を晒したからか、彼はそれを隠そうともしなくなった。

 気に入らなければものに当たって脅したり、高圧(こうあつ)的な態度をとったりと、とにかく自分の思い通りにしようとする。

 直接の暴力がないことがせめてもの幸いだったけれど、いつまでもつか分からない。
 もしかしたら、時間の問題かもしれない。

 愛沢くんの親が帰ってくる少し前には解放されるのだけれど、家に帰ってからもわたしに安息(あんそく)はなかった。

 ────スマホが震える。
 鞄を置いてから、恐る恐る開いた。