◇
放課後も毎日、愛沢くんと過ごすことを余儀なくされていた。
どこかへ出かけたりもするけれど、彼の家へ行くことが多い。
愛沢くんは一緒にいるだけで満足そうだった。
わたしを直接、見張っていられるから。
自分の手元に留めておけるから。
「こころ」
玄関のドアが閉まるなり、彼に引き寄せられる。
ぎゅう、と抱き締められた。
「……やっとこうできる」
背中と後頭部に手を添え、ささやくようにこぼす。
「隼人……」
「我慢してた。ずっとこうしたかったけど」
確かに彼は、外ではこういうことをしない。
触れても手を繋ぐ程度だった。
その分、家の中では随分と素直なものだ。
意外と甘えたがりなのかもしれない。
ここにふたりでいるだけで嬉しそうなのは、純粋にそういう理由もあるのだと思う。
(でも、わたしにとっては……)
逃げ場も助けもないこの空間は、少しも気が休まらない。
愛沢くんの優しさは嵐の前の静けさのようで、ひとときも油断ならないのだ。
(苦しい)
彼の隣は息が詰まる。
片時もわたしを手放せないのは、わたしを信用していないせいなんじゃないだろうか。
そう思うと余計に居心地が悪くなる。虚しくなる。
(けど、もしかしていまなら聞いてもらえる……?)
機嫌のいいいまなら、わたしの声が届くかもしれない。
「あのね、隼人」
「ん?」
「隼人の気持ちは嬉しいよ。だけど、ちょっと……」
緊張と警戒から高鳴る鼓動が響く。
慎重に言葉を選んだ。
「ちょっとでいいから、自分の時間も欲しいなって」
「…………」
吟味するような沈黙が続いた。
まともに息をすることもままならないほど、緊迫感が空気を支配する。
ややあって、そっと愛沢くんが力を緩める。
わたしを見下ろすその瞳は、凍てつくほど冷ややかなものだった。
「……なに言ってるか分かんねぇんだけど」
苛立ちをあらわに低められた声。
ぴり、と空気がいっそう張り詰めるのを肌で感じ取る。
「何、って……」
「俺が悪いの?」
そう聞き返され、言葉を失う。
切実な表情が突き刺さって心が抉れる。
「そ、そういう意味じゃなくて」
「いいよ、分かったから。こころには俺の気持ち、全然伝わってなかったんだな」
「ちがうの! 隼人、わたしは────」
失望して突き放すようなもの言いに焦った。
だけど、わたしの弁解を聞く気なんてないらしく、するりと腕がほどかれてしまう。
彼の背中が廊下の奥の方へと遠ざかっていく。
「ちょっと待って」
放課後も毎日、愛沢くんと過ごすことを余儀なくされていた。
どこかへ出かけたりもするけれど、彼の家へ行くことが多い。
愛沢くんは一緒にいるだけで満足そうだった。
わたしを直接、見張っていられるから。
自分の手元に留めておけるから。
「こころ」
玄関のドアが閉まるなり、彼に引き寄せられる。
ぎゅう、と抱き締められた。
「……やっとこうできる」
背中と後頭部に手を添え、ささやくようにこぼす。
「隼人……」
「我慢してた。ずっとこうしたかったけど」
確かに彼は、外ではこういうことをしない。
触れても手を繋ぐ程度だった。
その分、家の中では随分と素直なものだ。
意外と甘えたがりなのかもしれない。
ここにふたりでいるだけで嬉しそうなのは、純粋にそういう理由もあるのだと思う。
(でも、わたしにとっては……)
逃げ場も助けもないこの空間は、少しも気が休まらない。
愛沢くんの優しさは嵐の前の静けさのようで、ひとときも油断ならないのだ。
(苦しい)
彼の隣は息が詰まる。
片時もわたしを手放せないのは、わたしを信用していないせいなんじゃないだろうか。
そう思うと余計に居心地が悪くなる。虚しくなる。
(けど、もしかしていまなら聞いてもらえる……?)
機嫌のいいいまなら、わたしの声が届くかもしれない。
「あのね、隼人」
「ん?」
「隼人の気持ちは嬉しいよ。だけど、ちょっと……」
緊張と警戒から高鳴る鼓動が響く。
慎重に言葉を選んだ。
「ちょっとでいいから、自分の時間も欲しいなって」
「…………」
吟味するような沈黙が続いた。
まともに息をすることもままならないほど、緊迫感が空気を支配する。
ややあって、そっと愛沢くんが力を緩める。
わたしを見下ろすその瞳は、凍てつくほど冷ややかなものだった。
「……なに言ってるか分かんねぇんだけど」
苛立ちをあらわに低められた声。
ぴり、と空気がいっそう張り詰めるのを肌で感じ取る。
「何、って……」
「俺が悪いの?」
そう聞き返され、言葉を失う。
切実な表情が突き刺さって心が抉れる。
「そ、そういう意味じゃなくて」
「いいよ、分かったから。こころには俺の気持ち、全然伝わってなかったんだな」
「ちがうの! 隼人、わたしは────」
失望して突き放すようなもの言いに焦った。
だけど、わたしの弁解を聞く気なんてないらしく、するりと腕がほどかれてしまう。
彼の背中が廊下の奥の方へと遠ざかっていく。
「ちょっと待って」



