嘘に恋するシンデレラ


 わたしが感じている窮屈(きゅうくつ)さなんて知る(よし)もなく、彼は終始機嫌がよさそうだった。
 きっと放課後も解放してはくれないだろう。

(これじゃとても星野くんのところになんて行けない)

 彼との時間も作らなきゃ探れないし、遠回しにでも「一緒にいたい」と言ったのはわたしなのに。

 昼休みになると、スマホが震えた。
 星野くんからメッセージが来ている。

【今日は一緒に帰れる?】

 そうしたいのは山々だけれど、愛沢くんが許してくれるとは思えない。
 それに、ふたりが直接顔を合わせて衝突することは避けたかった。

【ごめん! 今日は難しそう】

 そう打ち込んで送信した瞬間、手の中からスマホが消えた。

「え……」

 驚いて顔を上げる。
 いつの間にか正面に立っていた愛沢くんに取り上げられていた。

「何してんの?」

「何って、別に……」

 責めるような口調で問われ、むっとしてしまう。
 返した言葉と声に図らずもここまでの不満が乗った。

 画面を見た彼はうっとうしそうに目を細め、素早く何やら操作する。

「ちょっと!」

 いい予感なんてまるでしなくて、取り返そうと必死で手を伸ばす。

 さっと避けてなおも操作を続けた愛沢くんは、それが済むと荒々しい手つきでスマホを差し出してきた。

「俺以外の男と連絡取んな」

 その言葉に慌ててメッセージアプリを確認すると、星野くんのアカウントとトーク履歴が削除されていた。

「何するの。どうしてこんな……」

「当たり前だろ、俺たち付き合ってんだから。おまえには俺以外必要ないの。いい加減、自覚しろよ」

 あんまりだ。
 抗議(こうぎ)しようと口を開きかけたものの、その前に再びスマホを奪われる。

「あ、そうだ。忘れてた」

「ちょっと、返してよ!」

 これ以上何をするつもりなんだろう。

 愛沢くんはわたしの意思なんて微塵(みじん)(かえり)みない。
 けれど、悪気もまったくなさそうだった。

 そんな様子を目の当たりにして、身体から力が抜けていく。
 怒りを通り越して、むしろ温度が低くなった。

「……何なの。彼氏でもないくせに」

 思わずそうこぼすと、がっといきなり髪を掴まれる。

「痛……っ」

「彼氏、だろ?」

 ぞくりと背筋が凍える。

 あまりに鋭い眼差しと声色はわたしに有無を言わせない。
 いままでで一番、怖いくらいに威圧的だ。

 それ以外の真実なんて認めない。
 そんな強い意思が窺える。