嘘に恋するシンデレラ


 息をのむ。
 重たげに心臓が脈打つ。

 流れとしては(おおむ)ね同じだけれど、さすがに最後の部分はちがっていた。

 言っていることは理解できるし、一見して矛盾もない気がする。

(でも、どうして分かるの?)

 病室でずっと付き添ってくれていたのは愛沢くん。

 だけど、わたしが実際にそんな目に遭ったとして、どうして病院に運ばれたことを知っていたのだろう。

 先生の反応からして、病院が連絡を入れたとは思えない。

(やっぱり、変……)

 愛沢くんの言い分にもまた、無視できない違和感があるように思える。

 そもそも彼は、いったいいつから病室にいたんだろう。

 しかも、何だか事の一部始終をまるで直接目にしたかのような鮮明で澱みない口調だった。

(“突き落とされた”なんて、ひとことも言ってないのに)

 怪我のことも“傷”と言っただけで、どれを指すのか明言しなかった。
 それなのに額のことだとすぐに分かったみたいだった。

「あいつ、見ての通りなに考えてるか分かんねぇだろ? 腹の底が読めない感じ。みんなあの胡散(うさん)くさい表の顔に騙されてんだよ。裏では散々おまえを追い詰めてたのに」

「そんな……」

「けど、もう大丈夫だ。心配すんな」

 星野くんに対して苛立ちを募らせていた愛沢くんだったけれど、ややあって力を抜いた。
 そう強気に笑いかけてくれる。

「俺が守ってやるから」



     ◇



 すっかり日の落ちた夜、わたしはひとけのない歩道橋の上を歩いていた。

 暗闇に紛れた誰かの気配を背後に感じて、意を決して振り返ったけれど誰もいない。

 それでも何だか気味が悪いから、逃げるように足早に歩を進める。
 ちょうど階段にさしかかった瞬間のことだった。

 どん、と背中に衝撃を感じたと同時に身体が宙に浮いた。

 視界が反転したかと思うと、全身を打ちつけながらみるみる転がり落ちていく。

「……っ」

 ────はっと息をのんで目を覚まし、勢いよく起き上がった。
 ベッドの上、時刻は深夜0時。

「夢……?」

 震える呼吸を繰り返しながら、冷たくなった指先を握り締める。

 もし、夢でも想像でもないとしたら、いまのはきっと失った記憶の断片(だんぺん)

 わたしは本当に階段から突き落とされたんだ。