「どうしたの?」
「んー、別に。“あとで”って言っただろ」
正面に屈むと机の上に腕を載せた。
「……同じクラスだったらよかったのに。そしたら何かあってもすぐ駆けつけられる」
目の届く範囲にいて欲しい、というのはやっぱりそういうことみたい。
「何もないよ、大丈夫」
わたしは笑ってみせる。
「怪我したのだって事故みたいなものだし」
偶然の流れだったけれど、いい機会が巡ってきた。
鎌をかけるつもりで、あえてそのことについて触れてみる。
「……事故?」
愛沢くんは怪訝そうに眉をひそめる。
うまく食いついてくれた。
「あ、うん。歩道橋の階段から落ちたって────」
「あいつがそう言ったのか?」
その表情が次第に曇り始める。
怒りの色を濃くしていくのが見て取れた。
「そうじゃなくて、病院の先生が……」
つい声の調子が弱々しくなる。
あっさりと気を挫かれた。
転落する前から既に額を怪我していたことは伏せておいて、彼から何か引き出せないか粘ろうと思ったのに。
愛沢くんの剣幕や態度に圧され、それ以上の駆け引きをする気力が削げてしまう。
わたしに対する怒りではないと分かっていても、わたしを通して星野くんに向けられる敵意が恐ろしかった。
「……ふーん、そっか」
彼は、いや彼もまた、わたしの怪我はもう一方の仕業だと主張するつもりなんだ。
つまりは星野くんのせいだと。
この短いやり取りの中でそれだけは掴めた。
「あ、の。わたしの傷って……」
言い終える前に彼の表情が曇った。
「……ああ、あいつにやられたんだろ?」
露骨に嫌な顔をして侮蔑や嫌悪感を滲ませる。
それが星野くんを指していることは、聞かずとも明白。
分かっていたけれど、やはり星野くんの言い分と矛盾した。
愛沢くんは彼を疑っているみたいだ。
「どういうこと?」
そう食い下がると、険しい顔で口を結んだ彼がややあって言う。
「……おまえはあいつと付き合ってたんだよ。けど、暴力振るわれててさ」
はっとする。
聞き覚えのある話だった。
「俺が間に入ってどうにか別れられたんだけど、あいつしつこくて……。そのあとこころが俺と付き合ったって知ってキレたんだろ」
「え……?」
「それが許せなくて、あいつはおまえを殴った。それで突き落とした」



