疑念と不安で凝り固まっていた心が、ふわりと軽くなっていくのが分かる。
彼の優しい笑顔や柔らかい態度が癒してくれるお陰で、一緒にいるといつも落ち着くことができた。
「……星野くんには救われてるよ。よりどころって感じがして、安心する」
「こころ……」
「分からないことだらけだし怖いけど、星野くんが一緒にいてくれたら心強い」
散々疑っておいて都合がいい。
見たい部分だけを見て、欲しいところだけを求めて。
そう思いながら「なんて」と肩をすくめたとき、重ねた手をぎゅっと握られた。
顔を上げると、彼は無邪気に笑う。
「嬉しい。そう言ってくれて」
大人っぽいばかりかと思っていたけれど、そんな笑顔も見られるなんて。
小さく心臓が跳ねた。
「僕も本当はきみといたいよ。でも正直、ちょっと遠慮してた。こころは覚えてないから、そうしないと追い詰めることになるかと思って」
確かにそれはそうかもしれない。
そんな気遣いがあったからこそ、星野くんの距離感には救われていた。
「けど、こころがそう言ってくれるなら素直になってもいいよね」
心臓がどきどきする。
苦しいほどなのに嫌じゃなくて、むしろ心地いいくらい。
(星野くんが本物だったらいいのに……)
わたしは懲りずにまた、そんなことを願ってしまう。
「明日の朝も迎えにいくよ。一緒に行こう」
◇
翌朝、廊下で星野くんと別れて教室へ入っていく。
今日も机に落書きされているのではないかと身構えたものの、飛び込んできた光景は予想とちがっていた。
「愛沢くん……」
わたしの机の上に悠然と腰を下ろしていた彼と目が合う。
「ちがうだろ」
一瞬何のことか分からず戸惑ったものの、呼び方のことだとすぐに思い至る。
「あ……は、隼人」
そう呼ぶと、彼は口端を持ち上げた。
掴まれた手首の痛みや星野くんの話を思い出して、図らずも警戒心や抵抗感が強まる。
機嫌を損ねたら、また豹変してしまうかもしれない。
「おいおい、何て表情してんだよ。せっかく来てやったのに」
「ご、ごめんね。ありがとう」
「いいって、当然だろ? 彼氏なんだからさ」
彼は余裕に満ちた微笑をたたえ、机から下りた。
「なあ、ちょっといい? 話しときたいことがある」
落ち着かない気持ちで愛沢くんの隣を歩き出す。
「…………」
強気で自信に満ちていてかっこいい男の子、そんな彼の印象が揺らぎ始めていた。
思っていた以上に主張と意思が強くて、その上で凶暴性までちらつかせてくるから、対等に話すことも気軽にできない。
(わたしの考えすぎならいいんだけど)



