嘘に恋するシンデレラ


 今度はメッセージアプリを開いてみた。

 連絡先として彼らのことは登録してあるのだけれど、トーク履歴が残っているのは星野くんだけ。
 だけど、内容は()に等しかった。

 病室で目覚めた日が最初で、それ以前のやり取りは残っていない。

「何これ……」

 ざわざわと胸の内が騒ぎ始める。

 電話の履歴もブラウザの検索や閲覧履歴も、何ひとつとして残っていない。
 結局、何の手がかりも掴めなかった。

(おかしい)

 普通に考えて、こんなのありえない。

 まるで、あらかじめこうなることを────何も知らないわたしが戸惑いに明け暮れることを、狙っていたみたい。

 そうじゃなきゃ、スマホがこんな空っぽになるわけがない。

 以前のわたしが自分でやったのだろうか。
 あるいは誰か、愛沢くんや星野くんにやられたのだろうか。

 作為(さくい)的なものを感じ、底冷(そこび)えするような不安感が込み上げてくる。

(こうなってくると、額の怪我も偶然じゃないんじゃ……)

 そんなことを考えたとき、ふいにスマホが震える。

 星野くんからの着信だった。
 つい身を強張らせてしまいながらも応じる。

「もしもし……」

『あ、こころ。もう家着いた?』

 彼の声は普段通り優しくて、不思議とほっとする。

「うん、さっき帰ってきたところ」

『そっか、何ともなかったならよかった』

 一拍の沈黙を経てから、星野くんが言葉を繋ぐ。

『……さっきは怖がらせたよね。ごめんね』

「え」

『こころを助けたかっただけなんだけど、逆に追い詰めちゃったかな』

 慌てて首を横に振った。

「そんなことないよ! ……星野くんが来てくれたとき、正直安心したっていうか」

 そう答えると、彼が「ねぇ」と控えめに言う。

『ちょっとだけでも会えない? 電話じゃもの足りないし、こころの顔見て話したい』



 家のそばの公園で待っていると、ほどなくして星野くんが現れた。
 穏やかに手を振りながら歩み寄ってくる。

「ありがとう、来てくれて」

「ううん、星野くんも」

 いつだって彼の中で主軸(しゅじく)になるのはわたしなのだと実感する。

(優しい、けど……)

 このままその優しさに溺れて、身を委ねてしまうのは簡単だ。
 だけど、そうやって後先を考えないのはすべてを諦めて投げ出すに等しかった。

 こんなによくしてもらっておいて疑いをかけるような真似はしたくない。
 けれど、信じたいからこそ確かめておかなくちゃならないことがある。

「……ちょうどよかった。わたしも星野くんに聞きたいことがあって」

「ん?」

「わたしのこの怪我のことなんだけど……」

 額のガーゼに触れて示す。

「もしかして、何か知ってたりする?」