ドライバーだちは猫をよけて運転しているけれど、後方にいた車がすべて猫を認識しているとは限らない。

白線の上にいる白猫は色も同化しやすく、ヒヤリとする瞬間が何度もあった。
「お母さん、猫ちゃんが……」

女の子の今にも泣き出してしまいそうな声が聞こえてくる。
母親は女の子の視線を猫から切り離すようにその体を抱き上げた。

女の子はなおも「猫ちゃん」と言い続けているけれど、母親は返事もしなかった。

他に信号待ちをしている人たちも猫の存在に気が付きながらもなにもできずにいる。

申し訳なさそうな顔をしている人。
しょうがないよなと諦めの表情をしている人。

一回猫に視線を向けただけですぐに興味を失ってスマホに集中している人。
尚美は早く信号が変わることを祈るしかできなかった。